“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
ドリブラー少年は黒子に徹していた。
川崎DF登里が口にした結果への執着。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/04/26 17:30
黒子に徹しつつも、瞬間的な突破が光るサイドバックに成長を遂げた登里享平。J王者の川崎の中でも、貢献度は高い。
確立してきた「サイドバック論」。
獰猛な牙を捨てる決断をした彼だったが、そこから彼が磨き上げたものは別の牙だった。プロでの生き残りを懸けて取り組んだ結果、彼は独自の「サイドバック論」を手に入れた。
「サイドバックの役割は変化していると思います。ただ攻撃力があるだけではダメ。後ろからビルドアップするチームに対して、サイドバックは『狙い所』になるんです。サイドバックは味方にとってはパスの『逃げ道』にもなるし、ポジショニングによって相手にとってのハマりどころにもなる。そこが物凄く紙一重なポジションなんです。ほんのわずかなポジショニングのズレひとつが命取りになるんです」
ポゼッション主流のチームに対して、相手はサイドバックに圧をかけて、ボールを奪い取ろうとする。そこで簡単に奪われたり、単純に前に蹴ってしまうと、狙いのビルドアップは完成しないし、ドタバタとする。攻撃の起点になり、かつ相手の狙い目となるポジション。この狭間の中で彼はどう生きているのだろうか。
「相手のサイドバックやウィングバックをどう剥がせるかを考えています。自分で剥がすことがベストなのか、いかに自分に食いつかせて味方に裏を狙わせてあげられるのか。
あとは囲まれやすいポジションなので、常に逃げ道が見えている状況というか、ある程度、客観的に状況を掴む。基本的に攻撃時は味方の位置を把握して、相手がどう出てくるか、自分のポジショニングを細かく変えながらやっています。
実際に囲まれた時やボールを回す時は、1番遠いところから見るようにしていて、そこから徐々に選択肢を変えていく。ワンタッチで逃げられる道は常に模索しています」
川崎の音色を紡ぎ出す“動き”。
登里の口からスラスラと出てくるサイドバック論。実際にプレーを見ても、いつも落ち着いていて、どんなに劣勢でもバタバタすることはない。正確にパスをさばき、相手のパスコースを消し、時には「昔取った杵柄」と言わんばかりに鋭い突破も仕掛ける。
サイドから中央へ絞る、または開く。ポジションを落として深みを取る。相手のボランチ脇に潜り込んでポイントをつくる。それぞれのタイミングが、目立ちはしないものの、良質のアコーディオンのように伸縮を繰り返し、心地よい音色を紡ぎ出す。
だが、それは決してメインパートにはならない。でも、川崎が奏でるメロディーラインの確固たるベースとなっている。
「'15年と'16年の2年間は怪我が多くて、試合に出られない時期が多かった。でも、一昨年からコンスタントに試合に出ることができた。ここでより自分のプレー、役割、意識が試合を重ねながら整理できたことが大きかった。僕は目立たないけど、ポジショニングや味方のサポート、あとはカウンター潰しやミスの少なさなど、黒子の部分を評価してもらえたらと思っています」