“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
ドリブラー少年は黒子に徹していた。
川崎DF登里が口にした結果への執着。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/04/26 17:30
黒子に徹しつつも、瞬間的な突破が光るサイドバックに成長を遂げた登里享平。J王者の川崎の中でも、貢献度は高い。
芽生えた「結果」へのこだわり。
そして迎えた今季。黒子に徹することに活路を見出していた彼の中に、新たな意識が芽生え始めたのだった。
「ずっとチームの優勝のために取り組んできたし、2連覇をした時もチームがうまく回って勝ちに繋げることができたら、充実感を得ることができていたんです。自分への満足感があった。それは『黒子で生きていく』と割り切れていたから。
でも、昨年の僕の成績を振り返ってみると、リーグで25試合出ているのに、0ゴール・0アシスト。目に見える結果は一切出していなかった。これに危機感と悔しい気持ちが生まれてきて、『あ、俺はプロ10年になっても課題が変わっていない』ということに気づいたんです。僕の課題は目に見える結果を出していないこと。今年は結果にもこだわらないといけないと思ったんです」
彼の牙は、一瞬で相手を仕留める瞬間的な牙から、一度噛んだら絶対に離さないで、相手を消耗させていく、持続性のある牙に生え変わった。だからこそ、派手なプレーではないが、チームに大きなプラスをもたらしていた。だが、そこにもう一度、獰猛な牙を生やしていきたい。
湘南戦で見せた登里の突破。
その決意は今、形となって現れようとしている。
J1第5節の松本山雅戦。20分にMF家長昭博の浮き球の縦パスをDFラインから最前線まで駆け上がって受け、決定的なシュートを放つ。44分には登里の左からのクロスをFW知念慶が決めて、今季初アシストをマークした。
そして、第8節の湘南ベルマーレ戦では、登里の変化をさらに感じることができた。
2-0で迎えた54分の場面。
MF大島僚太が湘南MF中川寛斗の縦パスを右サイド深くでインターセプト、このとき登里は大島の斜め前にいた。ボールを取り返しにきた中川のプレスに対し、大島は背を向けながらキープし、登里へパス。しかし、その大島の横パスが少し後ろにずれたことで、登里は下がりながらボールを受けることになる。
すると、中川と前線に上がっていたMF岡本拓也がプレスをかけ、さらにタッチライン付近でフリーと確認したはずのMF阿部浩之にもMF齊藤未月がマークに付き、八方塞がりになりかけた。
だが、登里は中川の逆を取り、背後からボールを狙いにきていた岡本の股の間にボールを通すと、そこから一気に加速。一瞬にして2人を置き去りにすると、慌てて寄せてきた齊藤を振り払い、敵陣へ侵入。前線で備えていたフリーの家長に縦パスを送り、あわやゴールというカウンターの起点をつくった。