ニッポン野球音頭BACK NUMBER
富岡西、ノーサイン野球で強豪に挑む。
甲子園で見せた「部活動」の魅力とは。
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byKyodo News
posted2019/03/27 11:30
6回表、富岡西の5番安藤が右前打を放つと、一塁走者・吉田が一気に三塁まで進塁! 甲子園での初得点は、選手たちの自主性が生んだものだった。
強い東邦とノーサインの進学校。
その言葉どおり、昨秋の四国大会1回戦では、高知に7-7の同点とされた8回裏、監督からのサインなし、三塁走者と打者の連携だけで決勝スクイズを決めた。
徳島県南部を代表する進学校のノーサイン野球は、どこまで進化しているのか。強い東邦にどう立ち向かうのか。この試合の大きな見どころだった。
「とにかく守りを中心に鍛えてきた。そこで破綻をきたすと一方的な展開になってしまう。強い打球をしっかり止めて、ロースコアに持ち込みたいというのが願いです」
試合は、小川の「願い」どおりに進んだ。
富岡西のエース浮橋幸太は100~110km台のカーブを多投して東邦打線のタイミングを微妙に狂わせ、3回の犠牲フライによる1失点だけで回を重ねていく。初回には、昨夏の甲子園準優勝投手・吉田輝星の首の動きも参考にしながら練習を重ねてきたという巧みな牽制で一塁走者を刺し、主導権を譲らず格上の相手と互角に渡り合った。
5番安藤の構え方。
中盤、富岡西のノーサイン野球が徐々にグラウンド上に表れ始める。
4回表ノーアウト一、二塁のチャンスに打席に入ったのは、5番の安藤稜平。バントの構えからバットを引いた時のような、やや中途半端にも見える構えで投手に相対した。
安藤は言う。
「バントをしようとは思ってたんですけど、ダブルスチールとかエンドランの可能性も考えて。(ランナーが)走らんかったらバントやし、走ったらヒッティング。どっちもできるように、ああいう構え方をしてました。自分で考えて、実戦の中でできあがってきた構え方です」
当人はさらりと言ったが、「走らんかったらバントやし、走ったらヒッティング」とは、容易くできることではない。事前の決めごと、サインはないのだ。走者の動き、空気を感じて、即座にバントかヒッティングかを決めて実行しなければならない。安藤は「(走者のスタートを見てから打つ)練習はしています。紅白戦などで積み重ねてきました」と話す。
この場面では、バントを試みる間に追い込まれ、結局、見逃しの三振に倒れてしまう。次打者にヒットが出て1アウト満塁まで石川を攻めたてたが、得点には至らなかった。