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富岡西、ノーサイン野球で強豪に挑む。
甲子園で見せた「部活動」の魅力とは。
posted2019/03/27 11:30
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph by
Kyodo News
高校野球の、スポーツの、魅力が詰まった試合だった。
第91回センバツの1回戦、富岡西(徳島)対東邦(愛知)のカードには、始まる前から好ゲームの“におい”がしていた。
まずは東邦。チームを紹介する記事には威勢のいい言葉が並ぶ。
前回優勝が1989年(平成元年)だったことから「平成最初と最後の優勝を狙う」とのキャッチコピーが付され、その実現は同時に、単独最多5度目の春優勝を意味する。チーム打率.386、1試合平均の得点9.47、盗塁数4.06はいずれも出場校中トップ。背番号1を付ける石川昂弥は打撃にも秀で、昨秋の公式戦7本塁打、27打点は出場選手中1位。東海大会優勝校にして、センバツ出場回数は歴代2位タイの30回目……。
早い話、東邦は打力のすぐれた強いチームなのだ。
かたや富岡西は、春夏を通じて甲子園初出場。昨秋の徳島大会3位から四国大会ベスト4入りを果たして、21世紀枠での選出につながった。ある新聞記事には、「自分たちは出場校の中で一番弱い」との部員のコメントが紹介されていた。
強豪私学vs.地方の公立校――。その構図は明瞭だった。
富岡西・小川監督が重きを置く自主性。
1回戦ではままあることと言えるが、筆者がそこに特別な“におい”を感じたのは、富岡西が「ノーサイン野球」をしていると知ったからだ。
スポニチの記事によれば、富岡西の小川浩監督がノーサイン野球に踏み切ったきっかけは、2012年に高川学園(山口)と試合をしたことだったという。高川学園の当時の監督は、東亜大を率いて3度の全国優勝を果たしたこともある中野泰造。まったくサインを出さずに試合を進める中野の姿に小川は驚き、その教えを請うてから、富岡西でも「ノーサイン」を実行すると決めた。
ベンチにいる監督からは見えないもの、グラウンドに立ってプレーしている選手たちにしか感じられないものがある。監督の仕事だと決めつけていたサイン出しを選手たちに託そう。そうして自主性を培いながら、選手たちが連動する野球を実現させようと考えたのだ。
小川は言う。
「これまでは最後の夏の大会でノーサインができるレベルになる、ぐらいの感じだったんです。ただ、この子たちは去年の秋から結構できるようになっていた。(毎年継続することで)1年生の時から覚えていってくれますし、年々、できるようになる時期が前倒しになってきてますね」