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<カープ侠気列伝>
ズムスタの主、安仁屋宗八の伝説。
text by

坂上俊次(中国放送)Syunji Sakaue
photograph byNanae Suzuki
posted2015/05/21 06:00

試合前のベンチでは安仁屋オーラにも注目だ。
マツダスタジアムのベンチには、白いヒゲの主がいる。
テレビやラジオの解説がなくても、試合開始3時間以上前には欠かさず球場入りし、ベンチの片隅で練習を見つめる。カープを愛するが故の皆勤ぶりは、もはや評論家の域を超えている。
もはや当たり前となった光景の主は安仁屋宗八。沖縄が生んだ初のプロ野球選手にして、カープでの現役時代はカミソリシュートの巨人キラーとして名を馳せた。そして今は自称・カープ応援団長である。
ベンチでは、選手たちに明るい激励の声を掛ける。プレーをよく見ているからこそ、たった一言でも選手に響く。外国人選手でもお構いなしだ。投手なら「インサイド、オーケー?」、この2単語で持論の内角攻めの極意を伝えてしまう。
誰彼かまわず“広島弁”で声を掛けるうちに、ベンチはいつしか安仁屋色に染まってゆく。国境もポジションも成績も関係ない。安仁屋にとっては皆、等しく可愛い後輩なのである。
解説はとにかく超ポジティブ。開幕前の順位予想では、「今年のカープは優勝間違いなし」が決めゼリフになっている。チーム状態にも世相にも影響を受けない。ある意味、どんな季語よりも律儀に球春の訪れを告げてきた。
調べてみると、16年連続でカープ優勝を予想している。近年は、「前田健太20勝、大瀬良大地15勝、野村祐輔15勝……」と大真面目に足し算をするうちに、どう考えてもシーズン110勝してしまう『安仁屋算』も、ファンの間ではおなじみだ。