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ルメールが語る'05年の有馬記念。
最強ディープにあった「隙」とは。
text by
平松さとしSatoshi Hiramatsu
photograph byKatsutoshi Ishiyama
posted2018/12/06 16:30
圧倒的な人気のディープインパクトに勝利したルメールとハーツクライ。その戦略は綿密なものだった。
徹底的なディープ対策開始。
一方のルメールは、ジャパンカップの直後から、自身初となる日本でのGI勝利を掴み損ねた後悔に襲われたという。
「GIでは2着は何回もあるのに勝てない。僕は日本では大レースを勝てないのかな? と、2週間くらい気持ちが沈みました。でも落ち込んでいる場合ではない、と思い直したんです。
世界レコードでの決着という、ベリー・ファースト・レースでタイム差無しの2着。ハーツクライはGIを勝てるポテンシャルを持っている。彼を勝たせるために自分がすべきこと、考えるべきことがあるんだ、と気持ちを切り替えるようにしました」
ここからルメールは“ディープインパクト対策”を練り上げていった。
まずは「敵を知る」ために、最強馬のレースビデオをとことん見直したという。
「直前の菊花賞はもちろん、ダービーも見ました。楽勝ばかりで強いのは良く分かった。ただ、3歳同士の競馬だったし、追い込み一手だったので、付け入る隙がないわけではないと思いました」
過去20年を見て得た“結論”。
次に「地の利を知る」ため、過去の有馬記念のレースビデオにも目を通した。
「グリーンチャンネルで流れていた過去20年分くらいのレースを全部観ましたよ」
その結果、一つの事実を確信した。
「中山競馬場が少しトリッキーなコースであることは分かっていたけど、実際に有馬記念のビデオを見て、前で競馬をする馬にかなり有利なことが分かりました」
最後に「己を知る」ため、ハーツクライのレースぶりを思い起こした。
「皆がハーツクライは追い込み馬だと思っていたようですが、天皇賞では好スタートを切っていたし、僕は先行する力を充分に持っていると感じていました」
今だから話せるのですが、とルメールは作戦の内容を明かしてくれた。
「道中、ディープインパクトより10馬身前にいること。東京ならそれでもかわされちゃいそうだけど、中山でその差をつけられれば、ディープ相手でも粘り切れる。この時のハーツはその力を持っていると確信していました。オンリー・ポイントは前で競馬をすること。作戦通りに乗れれば勝てる自信があったんです」