Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
ルメールが語る'05年の有馬記念。
最強ディープにあった「隙」とは。
text by
平松さとしSatoshi Hiramatsu
photograph byKatsutoshi Ishiyama
posted2018/12/06 16:30
圧倒的な人気のディープインパクトに勝利したルメールとハーツクライ。その戦略は綿密なものだった。
JCのゴール直後に驚いたこと。
スタンドから見守っていた鎌田もそのスタートには驚いたという。
「好スタート後も、1000m62秒台のペースに珍しく掛かり気味に走っていました。それまではゆるくて、押してもなかなか出ていかず、自動車に例えるなら、ディーゼル車で高速道路を走っている感じだったのに、この時の走りっぷりは全く違った。レース前の調教で跨っていても腰に力をつけているのを感じられたし、いよいよきたな、と」
だが、最後の直線で前が壁になる場面もあったことも影響し、勝ったヘヴンリーロマンスから2馬身ほど離された6着に終わってしまう。
「最後の150mは良い伸び脚でした。負けたけどベリー・ストロング・フィニッシュでしたね」(ルメール)
高いポテンシャルを感じたルメールが、「馬を知っていたら勝てたのでは」と少し後悔さえ覚えるほどの好感触だったが、続くジャパンカップでは一転してスタートで失敗。「『やっぱり下手なの!?』と、また驚かされた(笑)」このジャパンカップで、ルメールが本当の意味で驚いたのはゴールの直前、そして直後のことだった。
「道中はフランキー(アルカセットに騎乗のデットーリ騎手)が前にいたので、ついて行こうと考えていました。すると、息の入らない速い流れにもかかわらず、すいすいとついていく。勝負所でハーツの反応が一瞬遅れて、アルカセットから3、4馬身離されたのですが、最後は大きなストライドで追い上げてくれ、ゴールの瞬間は『勝ったかな!?』と思える脚でした」
とんでもない時計で反動が心配。
ハナ差の2着。勝ち時計を見て、ルメールは目をむいた。
「2分22秒1の世界レコードでした。この速い時計によく対応してくれたな、と」
鎌田は「悔しさ半分、サバサバした気持ち半分」だったという。
「デットーリはスムーズな競馬だったけど、クリストフは馬群をぬいながらの競馬でしたから、悔しかったですね。でもあの時計で走られたら仕方ない。逆にとんでもない時計で走って、反動が心配になりました。
有馬記念直前の追い切りで反動もなく、ホッとしたのを覚えています。ハーツクライは好調な状態を維持していましたが、有馬で戦うのはなんといってもディープインパクトです。まだ3歳の秋で伸び盛りで、しかも古馬に対して2kg軽い斤量で走る。負かすのは容易ではないと思っていましたね」