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ACL決勝、の前にわかった強さの源。
鹿島で個人アピールは許されない。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byJ.LEAGUE
posted2018/11/09 17:30
昌子源に「引退が延びたんじゃないかな」と冗談を言われる小笠原満男。彼の慕われ方は尋常ではない。
「今日で引退が延びたんじゃないかな(笑)」
3日後にACL決勝戦を控え、大岩剛監督は大幅にメンバーを代えた。前線には若い選手の名前も並んだが、小笠原満男と永木亮太というベテランのダブルボランチと昌子が背骨となり、チームを支えた。久しぶりに試合間隔が1週間あったおかげか、選手たちのコンディションはよく、生き生きとプレーする若手が輝いていた。
そしてこの男も――。昌子が小笠原について話した。
「走行距離のデータでは、一番走っていたのは満男さんじゃなかったけど、俺には満男さんが一番走っているように見えた。俺なんかは試合中にいろいろ言うけど、球際ひとつとっても満男さんは背中で語る。今日の満男さんのプレーを見た若手が感じることっていうのは本当に大きかったと思う。そういう姿勢を見て、僕もここまで育ちました。
39、40になってもあのプレーができるというのは、俺は本当にすごいと思うし。あれは50だな、引退。今日で引退が延びたんじゃないかな(笑)」
久しぶりの完封勝利に、主力選手たちの気持ちも引き締まったに違いない。
「この勢いを決勝へ」
そんな気持ちですべての選手がACL決勝戦へと向かう。
ミスを責めるのは試合の後でいい。
しかし決勝戦ファーストレグは、「勢い」というよりも「落ち着き」が印象深い試合となった。セレッソ戦の闘志が「動」ならば、決勝戦の闘志は「静」だったように感じた。チームの空気を三竿健斗が証言している。
「今までは試合中に何かうまく行かないとき、誰かのせいにするというか『もっとやろうよ、やってくれよ』と思うことがあった。でもそうじゃなくて、たとえば誰かがミスをしたら、それを叱るとかそういうことを言うよりも、そのミスをカバーしてあげる。今チームにはそういう雰囲気がすごく強くあるんです。
水原戦で軽いプレーがあってピンチを迎えたとき、スンテが『大丈夫、大丈夫、怒るな』と言ってくれた。そういうときは誰かを責めるよりも、チームを落ち着かせるような言葉が大事だと思うようになった。心の余裕ができた」
三竿の言葉で、思い出した小笠原の言葉があった。今から10年前くらいだっただろうか。「ミスをした瞬間、一番それを悔いているのはミスをした選手本人。だから、そこで怒る必要はない。あとで話せばいいこと」
誰かが言葉で導くのではない。チームの空気が選手を育てるのだ。