JリーグPRESSBACK NUMBER
ACL決勝、の前にわかった強さの源。
鹿島で個人アピールは許されない。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byJ.LEAGUE
posted2018/11/09 17:30
昌子源に「引退が延びたんじゃないかな」と冗談を言われる小笠原満男。彼の慕われ方は尋常ではない。
非主力組を「勝ってこい」と送り出す。
11月6日の柏レイソル戦も、小笠原を中心に「非主力」と言われる選手がスタメンに並んだ。そして、金森健志、町田浩樹、山口一真がゴールを決め、3-2の逆転勝利を収めている。逆転弾を決めた山口は大卒ルーキー。プロ初ゴールだ。「これを外したらクビになるかもしれない」という覚悟と「だから絶対に決める」という強い気持ちが生んだ得点だと笑った。
先制しながらも2失点。うまく行かない守備を中盤の並びを微調整し、立て直したのは、小笠原を中心としたベテラン陣だった。
「小笠原、曽ケ端、遠藤(康)、永木は、今日だけを見ても非常に頼りになる。頼りになるという表現は失礼だが、非常に評価している。彼らの経験を若手が吸収していることが、成長できている要因、自信を持てている要因だと思う」
大岩監督も大きな信頼を寄せている。
ACL決勝を優先するための主力温存。だから、Jリーグは非主力で戦う、いわゆるターンオーバーのC大阪戦と柏戦。それでも「勝ち」を捨てたというわけではない。普段試合に出せる機会が少ない選手たちを「勝ってこい」と送り出したのだ。リーグ優勝は消えたものの、来季のACL出場権争いは熾烈だ。勝ち点を落とすわけにはいかない。
個人のアピール、ではない。
リーグ戦2連勝。この成果は非常に大きい。選手層が厚みを増すだけではなく、チームとしての方向性をひとつにしたからだ。C大阪戦後に昌子が語っている。
「試合に出たすべての選手が、この勝利の意味を理解してやっていた。このメンバーで勝てば、ACLにどれだけの影響を与えるのかを理解したうえで戦っていた。全員が割り切った考えをしていたんじゃないのかなと。
この試合で活躍してACLに出てやる、という考えを持った人たちじゃなかった。ここで、めちゃくちゃいいプレーをして勝って、ACLへ勢いをつけるという考えを持ってやってくれていた。それが、今日の結果を生んだんだと思います」
出場機会の少ない選手にとっては、絶好のアピール・チャンスだ。しかし、最優先すべきはチームの勝利だ。自分の良いプレーではなく、チームの勝ち。それが鹿島アントラーズというクラブの掟なのだ。
「初めてのアジアのタイトルが懸かった決勝で、俺が目立とう、点を獲ろう、MVPになりたい……選手たちにそういうエゴが出てくると、タイトルを逃すことになる」とジーコも言っている。
「誠実、尊重、献身」
この精神のもとに選手は集まり、チームがひとつになる。