サムライブルーの原材料BACK NUMBER
川崎が獲得した2人の大学3年生。
伊藤宏樹スカウトが語る「逆算」。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byAFLO
posted2018/10/11 17:00
2020年の川崎加入内定が発表された三笘薫(左)と旗手怜央。大学で力を磨く2人はさらに実力をつけられるか。
アピールは……特に何も(笑)。
――旗手選手は大島僚太選手、長谷川竜也選手と同じ、静岡学園高出身です。
「最初に見たときからフロンターレに合うなって感じました。技術が高く、貪欲で常に上を目指している選手。伸びしろすごいなっていう目線でずっと追いかけていました」
――とはいえ、彼らには他のクラブからもオファーがあったはず。獲得するためにはどんなアピールを?
「いや、特に何もないですよ(笑)。ウチのクラブは、僕が言うのも何ですけど雰囲気がいいというか。練習に参加してもらって、そういったことを感じてもらえればうれしいかなと。
僕は引退して、スカウトになる前に2年間、イベントなどを企画する集客プロモーション部にいたんです。クラブ(現場)を外側から見てみるのも大事なんじゃないかと考えていました。生え抜きの選手も移籍で来てくれた選手も大体“居心地がいい”と言ってくれます。その理由はどこにあるのかなと。厳しいなかにも、雰囲気の良さがある。ほかのクラブももちろんいいとは思うんですけど、僕としてはそこがアピールポイントと言えばアピールポイントかなと」
――練習参加の段階でオファーに至っていると思います。やっぱり感じるのは、クラブの決断が早いということ。
「それは庄子(春男)GMと、スカウトの向島さんの強い信頼関係があるから。基本的にスカウトが“この選手にオファーしたい”と決めたら、尊重してくれます。現場もそうです。フロンターレのサッカースタイルに合う選手の基準というのは分かっているつもりだし、だから僕らも責任を強く持って仕事をやれています」
“入れるだけ”が仕事ではない。
言うまでもなく、“入れるだけ”がスカウトの仕事だと伊藤は思っていない。
プロの競争社会の準備を促し、覚悟を求める。三笘、旗手に対しては東京オリンピックから逆算して、彼らのケツを叩く意味で3年生時の獲得にこだわった。
壁にぶつかる1年目の準備をしておくように、とのメッセージ。大学の活動がない時期に、特別指定選手としてプレーできることにもなった。
「彼らだけじゃないですけど、獲得が決まったら、より厳しい目で見ていこうと思っています」
フロンターレひと筋13年間プレーした伊藤スカウト。ここからはクラブのOBとして、先輩として、声かけをやっていく。
彼らへの、そしてクラブへの愛情を持って――。