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日本一過酷な山岳レースTJARで、
絶対王者の消防士が挑む「無補給」。 

text by

千葉弓子

千葉弓子Yumiko Chiba

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photograph bySho Fujimaki

posted2018/08/12 00:00

日本一過酷な山岳レースTJARで、絶対王者の消防士が挑む「無補給」。<Number Web> photograph by Sho Fujimaki

前回2016年のトランスジャパンアルプスレースで、4連覇を達成した望月将悟。

4連覇、レコード記録のスーパースター。

 2年に一度開催されるこの大会で、ひときわ存在感を放つスターがいる。望月将悟(40)だ。

 2010年の大会から4連覇を果たし、前回2016年には「4日23時間52分」という大会レコードを樹立した絶対王者。望月は静岡市消防局に消防士として勤務し、南アルプスの山々で山岳救助隊として働く。望月の圧倒的な山での強さと実直な人柄に憧れ、「自分もTJARに出たい」と目標にする人たちが生まれてきた。

 その望月が5度目の挑戦となるこの夏、新たな限界に挑む。なんと、山小屋や途中の平地にあるコンビニなどには頼らず、ゴールまでのすべての食料を自身で持つ“無補給”で進もうとしているのだ。

友人に言われた「全部の荷物を背負って」。

 この超人的な挑戦を決意するきっかけとなったのは、ある登山家のひとことだった。

「全部の荷物を背負ってチャレンジしてみたら? アルパインクライミングの世界と同じように」

 そう望月に声をかけたのは、山の友人であり、2013年にはネパールでの先鋭的なクライミングが評価され、登山界の最高栄誉ピオレドールを受賞している花谷泰広だ。花谷がふと口にしたアイデアに、望月は強く心を揺さぶられた。

 アルパインクライミングでは、登山家たちはベースキャンプから自分自身で背負える分だけの荷物を背負って頂上を目指す。すべて己の力だけで完結させねばならない。

「やってみたい。できるかもしれない」

 もはやTJARでは「敵ナシ」の状態ともいえ、出走する意義を模索していた望月の挑戦心に火がついた。

 だが、この挑戦がどれほど大変かを想像するのは、普通の人間にはなかなか難しいだろう。TJARの選手が踏破する高低差は富士山7つ分なので、静岡の海から富士山の頂上まで7回を、食べ物や飲み物を途中で全く購入せずに行う、と言うとほんの少しはイメージできるだろうか。

【次ページ】 全行程の食料で重量は倍以上に。

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望月将悟

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