欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
バルサイズム最後の継承者が中国へ?
イニエスタの選択は何を意味するか。
posted2018/04/19 11:30
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph by
Getty Images
ボディービルダーのような体つきをしたクラーク・ケントは、自分がスーパーマンであることを隠すために、いつも猫背で歩き、冴えない黒縁眼鏡をかけて、時々みんなの前で大げさに失敗をやらかしてみせた。
平均的な日本人男性くらいの体格で、ずいぶん長く日差しを浴びていないような顔色をしたアンドレス・イニエスタに、そんな努力は必要ない。枯葉に擬態するコノハチョウのように日常に溶け込んでしまう彼を、誰もスーパーマンだとは思わないからだ。
以前スペインのTV番組で、イニエスタがあるショップの店員に扮して接客するドッキリ企画があった。そこではほとんどの人が、目の前にいるやけに制服姿が似合う男性の正体に気付かなかった。
ADVERTISEMENT
メディア受けしない地味なルックスは、サッカー専門誌の編集者も悩ませた。
「良い選手なのは間違いないが、イニエスタが表紙で本当に売れるのか?」
しかし、そんな弱腰の編集者をよそに、アルバセーテ出身の若き天才は瞬きをする間にも凄まじい勢いで進化を遂げていく。
スーパーマンであり、ギャンブラー。
ピッチに立った彼は、紛れもなくスーパーマンだった。
「イニエスタのどこが凄いの?」
そんな質問をされて困るのは、彼がまさにスーパーマンよろしくなんでもできてしまうからだ。
ジョゼップ・グアルディオラとシャビの系譜に連なるマシア(バルサの下部組織寮)育ちのピボーテは、偉大な2人の先輩に匹敵するパスセンスや状況判断力だけでなく、彼らにはないスピードとアジリティーも持ち合わせ、ウイングやトップ下などより攻撃的なポジションも難なくこなしてみせた。
見かけによらず、ギャンブラーでもあった。
ともすれば「ポゼッションのためのポゼッション」に終始しがちなバルサのサッカーだが、そのベクトルを縦方向に向ける役目を担ったのがイニエスタであり、リスクを顧みないギャンブル性に富んだスルーパスを、これまで数え切れないほど打ち込んできた。