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バルサイズム最後の継承者が中国へ?
イニエスタの選択は何を意味するか。
text by

吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2018/04/19 11:30

エースはメッシでも、バルサをバルサたらしめていたのはイニエスタだった。彼の移籍はクラブ文化そのものの危機なのだ。
クライフの哲学の体現者として。
忘れられないのは、バルサが14年ぶりの欧州王者に輝いた2005-06シーズンのCLファイナルだ。後半の頭から投入された当時売り出し中の若者は、それまでの淀んだボールの流れを一変させると、76分にはピッチを切り裂くような縦パスでサミュエル・エトーの同点弾を導き出している。
あの一本の矢が放たれなければ、のちの黄金時代も訪れなかったかもしれない。
ルイス・ファンハールによってトップチームに引き上げられ、フランク・ライカールトの下で才能を開花させ、ペップのチームで絶対的な地位を築いたイニエスタ。その後の政権交代を経ても、バルサにおける存在価値は不変だった。
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確かに近年は、加齢による衰えを指摘されることが少なくなかったし、90分間ピッチに立ち続ける試合もめっきり減ってしまった。
それでも、「醜く勝つくらいなら、美しく負けろ」というヨハン・クライフの哲学、すなわち“バルサイズム”の体現者であり続けようと、彼はいかなる戦術の変容にも立ち向かう努力を惜しまなかった。2014-15シーズン終了後にシャビが中東カタールへと去って以降は、背負う荷物がさらに重くなっただろう。
事実上の生涯契約を捨てて中国へ?
そんなイニエスタに、中国行きの噂が流れている。
第32節のバレンシア戦に勝利し、39戦連続無敗のリーガ新記録を樹立した直後のミックスゾーンで、彼はこうコメントした。
「これからどうするのか、すでに僕は決めている。ファンの愛情と敬意には感謝しているけど、(残留を願う)チャントによって考えを変えることはないだろう」
噂は、日を追うごとに現実味を増している。
昨年10月、バルサと事実上の生涯契約を結んだイニエスタは、12歳の頃から20年以上の歳月を過ごした愛着あるこのクラブに、留まろうと思えばいつまでも留まることができた。にもかかわらず、なぜ彼はカタルーニャの地を去ろうとするのか――。