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F1はなぜ反発覚悟で改革を進めるか。
1つは女性のため、そしてセナの存在。
posted2018/02/25 11:00
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
2つのニュースがオフシーズンのF1界を賑わせた。
ひとつは、2018年のマシンに装着が義務付けられた「ハロー」だ。2月中旬から続々と公開された新車の画像への違和感からか、再び賛否を問う意見が出ている。
もうひとつは1月末に発表されたグリッドガール廃止という決定で、こちらはF1界だけでなく、モデル業界やテレビ界などを巻き込み、社会的な問題提起にまで発展している。
ハローの義務化とグリッドガール廃止という2つのニュースは一見、無関係のようだが、根本的な部分ではつながっている。それは、どちらも古くから続いてきた伝統的なF1を見直し、新しいF1に踏み出そうという決定だということだ。
ハローの導入にあたって、元ワールドチャンピオンのジャック・ヴィルヌーヴは、「個人的には、ハローは少しやりすぎだ。モータースポーツに危険はつきもの。ハローなしで走るのが恐いのなら、(車体で覆われている)ツーリングカーレースに行けばいい」と語っていた。
歯に衣着せぬ発言で知られる元王者らしいもの言いだが、このコメントは少々、事実を見失っている感が強い。現役F1ドライバーは誰も、走行中に前方から異物が飛んでくるのが恐いから、とFIA(国際自動車連盟)にハローの装着義務付けを頼んだわけではない。むしろドライバーの間ではヴィルヌーヴ同様、「F1マシンにはふさわしくない」とハローに反対する声が少なくなかった。
「もしハローがあったら命を救えた」
それでもFIAがハローの導入に踏み切ったのは、ドライバーの命を守るという強い意志があったからだ。FIAのあるスタッフは導入に際して、こう語っていた。
「もし、ハローがあったら、これまで亡くなった何人かのドライバーの命は救えた。その中には、間違いなくアイルトン(・セナ)もいる。時計の針を戻すことはできないが、これから救える命だけは大切にしたい」
ハローに反対する理由の多くは、F1というカテゴリーはドライバーが搭乗するコクピット周辺が開放されているオープンフォーミュラであることが前提となっている。ヴィルヌーヴの「ハローなしで走るのが恐いのなら、ツーリングカーレースに行けばいい」というのもそうだ。ほかにもカテゴリーはあるのだから、F1の伝統を崩してはならないという主張だ。