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F1はなぜ反発覚悟で改革を進めるか。
1つは女性のため、そしてセナの存在。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2018/02/25 11:00
2月22日に発表されたメルセデスのニューマシン。コクピットを保護する「ハロー」が全車に装着されることになる。
グリッドガールは黎明期にいなかった。
では、F1の伝統とは何か?
今年発表された新車を10年前、20年前のマシンと見比べてほしい。意匠がまったく異なっていることに気づくはずだ。
「『ハローがF1にふさわしくない』と言う皆さんの意見も理解できるが、時代は変わりつつある」と4冠王者のセバスチャン・ベッテルが言えば、'05年と'06年王者のフェルナンド・アロンソも「ノーズだけを見ても、僕がデビューした'01年からF1は大きく変わってきた。40、50年前にはシートベルトすらなかったんだ。だから、僕にとっては疑問の余地はない。ドライバーの頭部を保護してくれるのなら、大いに歓迎する」と導入を擁護した。
レギュレーションの範囲内で、できるだけ速いマシンを作ろうとするデザイナー。そのマシンスピードを少し抑制して、安全性を向上させようとレギュレーションを改変するFIA。その繰り返しがF1の歴史であり、伝統なのである。
昨年まで当然のようにスタート前の各マシンの前に立っていたグリッドガールも、F1の黎明期には存在していなかった。F1がスタートした'50年代、グリッドに足を踏み入れることができたチームスタッフ以外の人物はドライバーの妻であり、恋人だった。二度と帰らぬ人となるかもしれなかったからだ。
今や多くの女性がF1の世界で働く。
その後、F1にさまざまなスポンサーが参入して娯楽性が高まるとともに、グリッドガールが登場。命をかけて戦う男だけの世界に、華やかな女性の存在が必要とされたのだ。
だが、いまやF1は飛躍的に安全性が向上。'94年のセナ以降は、'14年のジュール・ビアンキまで、レースで命を落とすドライバーは現れなかった。また現在、女性ドライバーこそいないが、多くの女性がF1の世界で働いており、F1が男の世界でなくなったこともグリッドガール廃止に大きな影響を与えたと考えられる。
'14年のイギリスGPとドイツGPのフリー走行でウイリアムズのF1マシンを走らせた女性ドライバーだったスージー・ウォルフは、グリッドガールの存在は否定しないまでも、FIAの決定は「正しい方向へのステップだと信じている」と語っている。