マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
華がなく、社会人は10社以上落ち。
DeNA・宮崎敏郎が超無名だった頃。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2017/06/19 07:00
社会人入りも、プロ入りも宮崎敏郎はギリギリだった。か細い成功の道を踏破した彼は、今後どんなキャリアを歩むのだろうか。
日本文理大の恩師が語る“2ストライク練習”。
宮崎敏郎の強靭な生命力は、プロでも発揮されている。
「4年生の最後の全国を懸けた試合は、宮崎が本来のフルスイングができなくて、ゲームセットになってるんです。それを、その先の野球人生でどう挽回するのか。楽しみにしてたんです」
佐賀・厳木高校の出身。
知っている人でなければ、絶対に“きゅうらぎ”とは読めないだろう。それほどの無名校で宮崎敏郎という素材を見い出し、4年間、手塩にかけて育てたのは日本文理大・中村壽博監督だ。
「2ストライクを想定したバッティング練習はこっちでも結構しつこくやってましたから、豪快に振り抜いてくるわりに三振が少ないのは、そのせいかもしれないですね。外の変化球で攻められても、バットに当てる技術があるから三振しない。だから率も上がるんだろうな」
社会人は10社以上落ちて、最後は“嘘”でセガサミーに。
あれは確か、宮崎敏郎がセガサミー2年目の都市対抗野球だったと思う。
日本通運との試合の終盤、彼が土壇場でレフトスタンドに叩き込んだ逆転満塁ホームランも、追い込まれてからの外の変化球にファールで粘って、投手が根負けしたように投じてきた甘いスライダーだった。
「それでもねあいつ、社会人何社落っこったんだろう。10や15じゃ利かないですね。背が低い、守りもあんまり上手くない。全部、断られました」
確かに、パッと見で損をするタイプなのかもしれない。いわゆる“華”、わかりやすいかっこよさがない。
逆に、毎日付き合ってみて初めて、そのスゴさのわかるタイプ。そういうヤツがいちばん頼りになるのも、人間の社会であろう。
「セガサミーにもね、『ショートできますか?』って訊かれました。『はい、できます』って、僕、ウソ言って拾ってもらったんです。向こうもわかってたと思うんですけどね、たぶん」