マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
華がなく、社会人は10社以上落ち。
DeNA・宮崎敏郎が超無名だった頃。
posted2017/06/19 07:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
6月13日。
DeNA・宮崎敏郎三塁手が、音もなくセ・リーグの首位打者にランクされた時、私の中で、ある感慨が胸を満たした。
世の中、地道にコツコツ頑張るヤツが、結局最後は勝つのかねぇ……。
華やかな世界といわれるプロ野球の中で、この男ほど地味で、土のグラウンドが似合う選手もいないのではないか。
グラウンドに出て来た時は洗剤の匂いがするようなユニフォームを着ていても、帰っていく時は泥だらけ。
この選手には、そんな記憶しかない。
社会人野球・セガサミーの頃。
ほかの選手を取材に伺った練習グラウンドで、みんなが全体練習を終えて、誰もいなくなったグラウンドで、いつまでもバッティング練習をやめようとしなかった汚れた“ヒゲだるま”のような姿。
「おーい、閉めるぞー」と誰かが呼んでも、聞こえているのか、いないのか、マシンと“2人の世界”でひたすらバットを振っていた。
何かが壊れた感じが頼もしかった。
野球職人みたいな見てくれと、洗練されたバット技術。
今でも、こんな選手がいるんだね……。左右にジャストミートのライナーを弾き返す、技術を感じるバッティングに、惹き込まれるようにして見入っていたものだった。
ヘタだから、練習しないと……! というモチベーションではなかったように思う。
オレの野球は“ここ”じゃないんだ!
そんな心の叫びが、汗の染みた背中から聞こえていた。
野球ひと筋の“野球職人”みたいな見てくれとは対照的に、そのバットコントロールは鮮やかで洗練されていた。
とりわけ、軸足に溜めたエネルギーを一気に前足に乗せ換えるようにしながら、バットヘッドを右方向へ長く走らせ、その軌道で右中間へライナー性で弾き返す技術には、目を見張るものがあった。