“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
他の選手なら造反、長谷部誠なら納得。
監督から与えられた巨大権限とは。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byAFLO
posted2017/02/07 11:00
かつて内田篤人が無人島に連れて行きたい3人を聞かれて「大工、漁師、長谷部」と答えた話はあまりにも有名。その人間力は本物だ。
説得力がない選手がやれば、ただの“造反”。
自ら戦術を変える。長谷部は簡単に言うが、試合の途中でこれを実行するのは非常に難しく、かつチームメイトに対して人間的な説得力がなければ出来ないミッションだ。指揮官の戦術を変えることは、資格を持たない人物がやれば、たちまち“造反”となってしまう。“造反”を“英断”に変える一番の方法は、やはり成功することだ。そしてたとえ成功しなくても、『あいつが判断したのだから仕方が無い』と周囲に思わせる説得力がいる。
長谷部はそれらをすべて持ち合わせているからこそ、指揮官は戦術を変える権利を彼に与えているのだ。
そしてシャルケ戦で、彼は自分の判断で戦術を変えて1-0の勝利を掴みとった。
「チームとしては、しっかりと繋ぐサッカーが基本。でも今日は、それを選択すること自体がリスクだった」
ピッチ状況を見て、即座にロングボールにシフト。
舞台はシャルケのホームスタジアムである、フェルティンス・アレナのピッチコンディションは、あちこちで芝がえぐれてデコボコだった。この状況ではパスがイレギュラーにバウンドし、インターセプトからカウンターを食らうリスクがあった。実際にホームのシャルケはロングボールを多用してシンプルに攻めていたこともあり、自陣でのパスミスが致命傷になる試合展開だった。
それを瞬時に察知した長谷部は、むやみに繋ごうとせず、周囲にもはっきりとプレーすることを伝え、自身もタッチラインへのクリアなど、リスクを避けるプレーを忠実にこなした。
「試合内容はともかく、この試合はとにかく失点をせず、着実に勝ち点を取ることが最優先だった。監督にも『試合を通してゼロで抑えろ』と口酸っぱく言われてましたから。なので、リスクを背負わないことを意識した。我慢の時間がある中で、チームも個人としても戦えたと思います」
長谷部の明確な意志がチーム全体に浸透したからこそ手に入った、敵地での勝ち点3だった。