“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
他の選手なら造反、長谷部誠なら納得。
監督から与えられた巨大権限とは。
posted2017/02/07 11:00
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
AFLO
「あれは結構いつもやっていることですよ――」
長谷部誠はこうさらりと言って退けた。『あれ』とは第18節のシャルケ戦の先制ゴールの後だった。
この試合、3バックの真ん中で先発フル出場を果たした長谷部は、33分に右サイドでFKを得ると、中央に蹴ると見せかけて、PKスポット付近でフリーだったFWアレクサンデル・マイアーへグラウンダーのボールを送り込む。ゴール前になだれ込んだ相手DFを嘲笑うかのように、ボールはマイアーの下へ届き、マイアーは冷静なシュートでゴールネットを揺らした。
0-0の均衡を破る、貴重なアウェーでの先制ゴール。共に守備的な布陣を敷くチーム同士の戦いだけに、先制点の持つ意味は大きく、フランクフルトの選手達はゴールを決めたマイアーを中心に歓喜の輪を作った。
輪が出来たのは、長谷部がFKを蹴った右サイド。当然輪の中心に長谷部の姿があると思いきや……そこには長谷部の姿“だけ”がなかった。
長谷部の姿を探すと、彼は1人だけゴールに入ったボールを持ち出し、センターライン付近をゆっくりとドリブルしていた。そしてそのままフランクフルトのベンチ前までボールを運んで行き、ニコ・コバチ監督と言葉を交わしていた。
先制されたシャルケに早くキックオフさせないように、かつ先制後のプランの確認をするためだった。それを「いつもやっていること」とさらりと言ってのけるが、これは今季初アシスト。殊勲者が喜びの輪に一切加わらず、本能のままに喜ぶチームメイトの傍らで、冷静にチームのために振る舞った。
長谷部「自分が戦術を変えるくらいの責任感を持って」
この一連の行動を見るだけでも、彼が名実ともにフランクフルトのリーダーであることが分かった。
「とにかく監督からは『君は経験ある選手なのだから、チームの中でリーダーとしてやってくれ』と言われている。ポジション的にも、経験値的にも、ピッチの中で自分が戦術を変えるくらいの責任感を持ってやっている。そういう意味では決断は自分がしないといけないと思っている」