“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
他の選手なら造反、長谷部誠なら納得。
監督から与えられた巨大権限とは。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byAFLO
posted2017/02/07 11:00
かつて内田篤人が無人島に連れて行きたい3人を聞かれて「大工、漁師、長谷部」と答えた話はあまりにも有名。その人間力は本物だ。
大小の判断を正確にこなす長谷部は、外せない選手。
ピッチ上には様々な選択肢がある。それは局面の選択だけでなく、試合の流れそのものを選択しなければならないケースもある。局面を判断出来る選手はそれなりにいるが、試合の流れをきちんと判断できる選手は少ない。その両方を感じ取り、正確な決断を下す選手がピッチ上にいることは監督にとっても重要で、長谷部のような選手はどんな状況でもピッチに置いておきたいものなのだ。
フランクフルトでの長谷部の最初のポジションはボランチだったが、現在はリベロを任されている。ピッチ上の指揮官として、3バックの真ん中で最終ラインからチーム全体をコントロールする任務を託されているのだ。
長谷部の身長は180cm。屈強なフィジカルと高さを誇るドイツのDFの中では、最も小柄な部類に入る。だが彼の頭脳と存在感は、それらのハンデを陵駕するとコバチ監督は判断をした。
長谷部のこれまでのキャリアを見ても、トップ下やサイドバックはもちろん、ヴォルフスブルク時代にはGKの退場を受けて、ゴールマウスを守ったこともある。
「次にどこでやるかは分からない。確かにシャルケ戦の前は練習でもボランチをやったり、リベロをやったりと、監督も自分のポジションを決めかねているのは感じる。でもどこであろうが、監督からは『とにかく後ろはゼロで抑えれば負けることは無い』と、特にDFにはしつこく言っていた。その中で結果が出て良かった」
どこで起用するか直前まで迷って、ギリギリでポジションを伝えても、安定したパフォーマンスで応えてくれる。さらに浮かれることも無く、常にチームファーストの考えで冷静な行動を見せる。コバチ監督にとって、長谷部が唯一無二の存在であることに、もはや疑いの余地は無いだろう。
ベテランでも成長できる、という確信。
33歳の長谷部誠は、ベテランでも成長できるということを見事に体現している。スピードが上がる訳では無い、パワーが増す訳ではない、キレが増す訳でもない。しかし、その他の部分を磨くことで、選手はいくらでも成長をする。
「とにかく来シーズンにインターナショナルのゲーム(チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグ)に出る順位で終わるためには、こういう試合は勝って行かないといけない。大事なのは連敗をしないこと。ホームで勝って、アウェーで勝ち点を取る。ボランチ、リベロといろんなポジションでプレーしていますが、与えられたポジションでシーズン最後までチームに貢献をしたいと思います」