マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
広島・野村祐輔が一度は失った自信。
エースの立場でこそ輝く不思議な男。
posted2017/01/10 07:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
ちょうど2015年の年末ごろだった。
ある野球の集まりの席で、2016年のプロ野球でドーンと活躍する選手を占おうということになり、問われて挙げたのが、ルーキー枠でオリックス・吉田正尚外野手、現役枠で広島・野村祐輔投手だった。
吉田正尚については、100%実力。あのスイングスピードと芯で捉える技術、それ以上に確信があったのは、大きな舞台でもファーストストライクをイメージ通りの打球に仕留められる集中力だった。そして、野村祐輔を挙げた根拠はもっと別のところにあった。
別の部分ではあったが、“確信”は吉田正尚以上だった。あの野村祐輔が、今年働かないでいつ働くのか……。今だから言うわけじゃないが、野球界の有名どころも何人かおられる中で、「まあ見てなさい!」と胸を反らしたものだった。
広島の鬼門、“鯉のぼり後”に8連勝。
16勝3敗、防御率2.71。セ・リーグのベストナインに最多勝、最高勝率。
野村祐輔の2016年はすばらしかった。
一気にほぼ倍増の昇給で、カープ日本人選手4人目の大台で契約を更改し、1億円プレーヤーの仲間入りを果たした。
例年、チームの勢いが下降線をたどる“鯉のぼりの後”あたりからオールスター戦にかけての前半の勝負所で、8連勝してチームの勢いに弾みをつける大奮投を見せてセ・リーグ制覇の原動力になったのだから、当然の結果である。正直、もっとふっかけてやればいいのに、とじれったく思ったほどだ。
入団した1年目の2012年は、9勝11敗ながら防御率1.98がキラリと光った。走者を背負ってからヨイショと踏ん張れるピッチングは、学生当時からの持ち味そのものだった。
翌年は、防御率こそ3点台だったものの、12勝6敗と“なかなか負けない投手”に成長。このままの成長カーブで投手陣の軸にのし上がっていくのだろう……と楽しみにしていたが、2014年からの2年間に苦労が続いた。