炎の一筆入魂BACK NUMBER
黒田博樹に繋げなかった空虚感。
動くリスクを怖れた広島の「型通り」。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/11/01 11:25
優勝を逃した直後、緒方監督は「来年は来年で新しいチームになってスタートだ。戦力も新しい顔ぶれがある」と前向きな発言でチームを鼓舞した。
大谷翔平と、勝負か、回避か?
だが、広島の思惑通りには行かない。
8回2死二塁とすると、大谷を歩かせた。この試合で2本の二塁打を放つなど、このシリーズ当たっている大谷との勝負を避け、この打席まで10打数2安打で長打のなかった中田翔との勝負を選択。逃げ切る態勢に入り、1点勝負を覚悟した。
だが、逃げ切る態勢は完璧ではなかった。打力のある松山竜平が9回に打席が回ってくることで、そのまま左翼の守備に就いた。今村、ジャクソン投入は「逃げ切り」の合図。4番を前にした敬遠策も、「ここをしのげば」という勝負どころだったはず。その一方で、追加点の可能性も下げたくなかったのだろう。
わずかな綻びをパ・リーグ王者に突かれた。
中田が引っ張ったライナー気味の当たりに松山は一瞬右足を下げ、ひと呼吸置いて前進。だが、間に合わない。中途半端に飛び込んで、同点どころか逆転の一塁走者まで本塁に返してしまった。
緒方監督「勝ち切れるチャンスはあった。自分の責任」
守備のスペシャリスト赤松ならば、捕れていただろう。
また、状況を落ち着いて考えていれば、無理せず単打で処理できたはずだ。
二塁走者の生還を防ぐ前進守備ではなく、一塁走者生還を警戒する守備隊形だった。二重のミスが逆転という最悪の結果を招いた。
同点で突入した延長10回は、2死一塁で大谷を迎えた。
カウント1-1から西川に盗塁を許し、2死二塁と状況が変わった。8回よりも分かりやすい1点勝負の場面。だが、2ストライクと追い込んでいたことで大谷との勝負を選択した。
内角の厳しいコースに投げ込むも、打球は無情にも定位置にいた右翼前へ。1点勝負の延長戦で塁を埋めずに敗れた。
8回はジャクソン、10回は大瀬良を送り込んだ……投手起用の結果がすべて裏目となった緒方孝市監督は「勝ち切れるチャンスがあった中で、勝ち切れなかったのは自分の責任で申し訳ない」と詫びた。
この1敗で、シリーズの潮目は完全に変わった。
前日の悪夢が消えない第4戦は、1点リードの6回裏に早くも松山を下げた。直後、7回の初球を先頭中田に左翼席に運ばれた。悪い流れは、歯止めが利かない。同点の終盤は3戦と同じように、今村、ジャクソンとつないだが、ジャクソンがレアードに勝ち越し2ランを浴びた。