炎の一筆入魂BACK NUMBER
黒田博樹に繋げなかった空虚感。
動くリスクを怖れた広島の「型通り」。
posted2016/11/01 11:25
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Hideki Sugiyama
スタンドではホットコーヒーが売られていた。吐く息も白く、上着が欠かせないほど肌寒くなった10月29日、広島の今季の戦いは終わった。
日本ハム栗山英樹監督が宙に舞う中、スタンドには空席ができ始めていた。多くの広島ファンは家路に就いていた。32年ぶりの歓喜を逃したことよりも、「黒田が投げる7戦目につなぐことができなかった」空虚感が襲っていたかもしれない。加えて、もっとできたのでは、という行き場のない感情も入り交じっていたように思う。
2連勝から歯止めが利かぬ4連敗で敗れた広島と、2連敗から4連勝で日本一となった日本ハムとの違いは、“負け方”にあったのではないだろうか。
シリーズ3戦目。黒田博樹で勝負に出た!
広島は連勝スタートを切り、日本ハムは連敗スタートとなった。
日本ハムからすると1戦目は大谷翔平を先発に立てながら、サインミスで重盗を許すなど広島クリス・ジョンソンとの投げ合いに屈した。2戦目は増井浩俊のミスで傷口が広がり敗れた。
その時できる最善手を打って、敗れた。数字的に重い2敗も、内容は割り切れるものだったかもしれない。移動日、津軽海峡を渡ったころ、心はすでに3戦目に向いていたに違いない。
迎えた札幌決戦初戦、黒田博樹が立ちはだかった。
1回に1点を先制される立ち上がりも、すでに引退を決めている右腕の気迫に満ちた投球が日本ハム打線を圧倒した。両足がつるアクシデントで黒田が緊急降板したが、1点リードしたまま終盤に突入した。
7回。広島は1、2戦でも登板した今村猛を投入し、逃げ切りを図った。無安打に抑え、8回も3連投となるジャクソンを起用。9回を抑えの中崎翔太につなぐ形で王手を託そうとした。