“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
ドリブルを、こだわりではなく武器に。
川崎・登里享平が捨てた固定観念。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byJ.LEAGUE PHOTO
posted2016/05/16 17:00
チームメイトの大久保や小林から大きな期待を寄せられている登里。今季はアシスト数が登里の活躍の指標となる。
怪我の功名は、新しい自分像と客観的な視点。
「特に左サイドバック、左サイドハーフがあらゆる状況で、どういうプレーをするのがベストかをずっと考えていました。パスを出すタイミング、もらうタイミング、中に行くタイミング、中でどういう持ち方をすればどこに出せるか……。足りないところを補い、その上で自分のストロングをどう活かすかを考えながら試合を見ることができた。それで得たイメージをもっと広げたくて、家に帰って海外サッカーや他のJリーグの試合を、自分でも驚くほど観ました」
どんどん膨らんで行く自らの新しいイメージ――そして、自らのチームのある「傾向」に気付いた。
「良いときは選手間の距離感が良くて、ボール保持者に複数のパスコースを作り出している。でも悪いときは距離感がバラバラで、パスコースが限定されてしまっているのでボールが動かない。特に今年は1トップに嘉人さん、トップ下に憲剛さんを置くシステムなので、この2人にマークが集中する分、いかに周りがフリーになれるか。この2人との距離感が重要だし、いかに自分が良いポジションを取れるかが、今年のうちのストロングを出す重要な要素になるって気づいたんです」
進化した彼は、4月6日のナビスコカップ新潟戦で本格復帰を果たした。
複数ポジションをこなせるスーパーな選手に!
左サイドハーフとしてスタメンで飾ると、サイドに張るだけでなく、積極的にバイタルエリアに顔を出して、ポゼッションに参加。的確な縦パスと追い越す動き、ダイレクトプレーを展開しつつ、要所で自慢のドリブルを披露し、5-0の大勝に貢献。
この試合で指揮官の信頼をがっちりと掴むと、リーグ第6節・鳥栖戦、第8節・浦和戦で左サイドハーフとしてスタメン出場。第9節のG大阪戦ではエウシーニョの出場停止を受け、サッカー人生初の右サイドバックでのスタメンでフル出場。第10節・仙台戦、第11節・柏戦では左サイドバックで再びスタメン出場を果たし、冒頭での神戸戦では左サイドハーフでスタメン出場した。
「風間さんの考え方が分かってきたし、自分の中で出来るプレー、出来ないプレーの整理がついた。その上で何が出来るか。ポジションが変わっても、頭が整理されている分、いつも通り身体が動いてくれた」
彼は復帰からリーグ戦の6試合で、3つのポジションを高いレベルでこなしてみせた。この事実こそ、彼が進化をした決定的な証拠である。
「頭打ち」だった自分の殻を脱し、ただのドリブラーからの脱却に成功したからこそ勝ち取ることができた、チームおよび監督からの信頼であった。