“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
ドリブルを、こだわりではなく武器に。
川崎・登里享平が捨てた固定観念。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byJ.LEAGUE PHOTO
posted2016/05/16 17:00
チームメイトの大久保や小林から大きな期待を寄せられている登里。今季はアシスト数が登里の活躍の指標となる。
神戸戦で見せつけた、見事なドリブル&パス。
話を神戸戦に戻そう。
この試合での彼は、自らの進化によって得た新たな能力を存分に披露した。
63分、センターサークル内で味方のDFエドゥアルドがボールを持った瞬間、DF高橋峻希とMF渡邉千真という敵選手の中間ポジションにいた登里が落ちて、エドゥアルドからの縦パスを引き出した。慌ててアプローチにきた渡邉のフィジカルコンタクトをものともせずにボールをしっかり受けとめると、重心の低い爆発的なスピードのドリブルでスラロームしながら、プレスバックにきたMF三原雅俊を一瞬で置き去りに。そして、ドリブルの先で対峙したMF藤田直之が食いついてきた瞬間――味方FW小林悠の足下にパスを打ち込むやいなや、小林の横のスペースに猛ダッシュ。小林からのリターンパスを、ダイレクトで相手の裏のスペースにパスで通し、抜け出した大久保が絶妙なループを沈める……。
風間監督が掲げる「出して、動く」を繰り返す流動的なパスサッカーを具現化しながら、得意のジャックナイフ・ドリブルを繰り出していく。あの瞬間、香川西高校の赤いユニフォームを着て、丸坊主だった少年の姿が重なって見えた。
「今、ドリブラーには苦しい時代になっている。だからこそ、視野を広げて考えないといけない。こだわりは時として、大きな弊害となる。だけど、それが自分の『武器』であることは間違いないし、決して捨ててはいけない。だからこそ、より考え、周りを見て、自己表現をしなければいけない」(登里)
チームスポーツであるサッカーは、自分本位では生き残っていけない世界である。だからこそ、固定観念を捨てた上で、己を知り、周りを知ることが絶対に必要となる。
今の登里享平のプレーは“集団の中での自分の長所の活かし方”を深く学ぶことが出来る、格好の生きた教材となっていると思うのである。