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イグアイン、セリエ記録の36得点!
エースで、指揮者で、シンボルだ。 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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photograph byGetty Images

posted2016/05/21 10:30

イグアイン、セリエ記録の36得点!エースで、指揮者で、シンボルだ。<Number Web> photograph by Getty Images

セリエAで誰も決めたことが無いシーズン36点目を決め、イグアインは叫んだ。もちろんダントツの得点王だ。

36点の中からベストゴールを選ぶとすれば……。

 歴史の頂点に立ったイグアインの、今季ベストゴールを一つだけ選ぶのは難題といえる。

 新記録の36ゴール目にあたるフロジノーネ戦でのスーパーボレーや、序盤の天王山だった6節ユーベ戦でGKブッフォン相手に決めた豪快なドリブルゴールも捨て難いが、筆者が推したいのは、14節インテル戦での“キックオフ65秒弾”だ。

 堅守の首位インテルを迎えたホームゲーム。キックオフ直後、左サイドのFWインシーニェが楔のパスを放つ。FWカジェホンがキープしたボールを、回り込みながら掻っ攫うと、イグアインはカットに突っ込んでくるDF長友佑都をものともせず、90度左方向へ右足を鋭く振り抜いた。

 流れるような一連の電撃プレーは名手ハンダノビッチにすら反応を許さず、低いシュートが右ポストぎりぎりに突き刺さった。

 試合開始65秒での先制弾は、インテルの戦意を粉々に砕くと同時に、スクデット争いへ名乗りを上げる強烈な宣戦布告だった。

 サン・パオロを震わす大歓声は、何度見返しても鳥肌が立つ。

イグアインが応援歌の指揮をとるのが恒例に。

 62分にイグアインが追加点を挙げ、'90年以来の首位奪取に成功したインテル戦では、試合後にも印象的な出来事があった。

 タイムアップの笛の後、イグアインはチームメイトたちと小躍りしながら首位奪取を祝い、ロッカールームへ通じる通路へ向かった。入り口をくぐろうとする間際、何かを聞きつけたイグアインは立ち止まると、踵を返してゴール裏席へと向かった。

 サン・パオロのゴール裏席“クルヴァB”では、齢を問わずに涙を流すいかつい男たちとそのパートナー、果ては家族連れの無邪気な子供らまでもが、精一杯声を張り上げていた。

 四半世紀を越えて、悲願の首位の座をもたらした英雄イグアインへ、彼らは声を嗄らして個人応援歌を捧げていた。

“Un giorno all'improvviso, m'innamorai di te...”
(ある日突然、俺はお前に恋したんだ……)

 イグアインはゴール裏席の真下に赴くと、両腕を大きく振って手を叩きながら、'80年代にヒットしたイタリアン・ポップスに合わせたロマンチックな歌詞の音頭をとった。響き渡る歌声のボリュームはさらに増した。

 以来、ホームゲーム後の“指揮者”イグアインは、恒例となった。エースストライカーは、チームとサポーターを団結させるシンボルでもあったのだ。

【次ページ】 36本もイグアインのゴールを目撃した幸せ。

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