セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
イグアイン、セリエ記録の36得点!
エースで、指揮者で、シンボルだ。
text by
![弓削高志](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/f/0/-/img_f0322fcff461573562ec362ae5a289399973.jpg)
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2016/05/21 10:30
![イグアイン、セリエ記録の36得点!エースで、指揮者で、シンボルだ。<Number Web> photograph by Getty Images](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/d/9/700/img_d9bb9aab7e387585b708fcefe07b0720164275.jpg)
セリエAで誰も決めたことが無いシーズン36点目を決め、イグアインは叫んだ。もちろんダントツの得点王だ。
36点の中からベストゴールを選ぶとすれば……。
歴史の頂点に立ったイグアインの、今季ベストゴールを一つだけ選ぶのは難題といえる。
新記録の36ゴール目にあたるフロジノーネ戦でのスーパーボレーや、序盤の天王山だった6節ユーベ戦でGKブッフォン相手に決めた豪快なドリブルゴールも捨て難いが、筆者が推したいのは、14節インテル戦での“キックオフ65秒弾”だ。
堅守の首位インテルを迎えたホームゲーム。キックオフ直後、左サイドのFWインシーニェが楔のパスを放つ。FWカジェホンがキープしたボールを、回り込みながら掻っ攫うと、イグアインはカットに突っ込んでくるDF長友佑都をものともせず、90度左方向へ右足を鋭く振り抜いた。
ADVERTISEMENT
流れるような一連の電撃プレーは名手ハンダノビッチにすら反応を許さず、低いシュートが右ポストぎりぎりに突き刺さった。
試合開始65秒での先制弾は、インテルの戦意を粉々に砕くと同時に、スクデット争いへ名乗りを上げる強烈な宣戦布告だった。
サン・パオロを震わす大歓声は、何度見返しても鳥肌が立つ。
イグアインが応援歌の指揮をとるのが恒例に。
62分にイグアインが追加点を挙げ、'90年以来の首位奪取に成功したインテル戦では、試合後にも印象的な出来事があった。
タイムアップの笛の後、イグアインはチームメイトたちと小躍りしながら首位奪取を祝い、ロッカールームへ通じる通路へ向かった。入り口をくぐろうとする間際、何かを聞きつけたイグアインは立ち止まると、踵を返してゴール裏席へと向かった。
サン・パオロのゴール裏席“クルヴァB”では、齢を問わずに涙を流すいかつい男たちとそのパートナー、果ては家族連れの無邪気な子供らまでもが、精一杯声を張り上げていた。
四半世紀を越えて、悲願の首位の座をもたらした英雄イグアインへ、彼らは声を嗄らして個人応援歌を捧げていた。
“Un giorno all'improvviso, m'innamorai di te...”
(ある日突然、俺はお前に恋したんだ……)
イグアインはゴール裏席の真下に赴くと、両腕を大きく振って手を叩きながら、'80年代にヒットしたイタリアン・ポップスに合わせたロマンチックな歌詞の音頭をとった。響き渡る歌声のボリュームはさらに増した。
以来、ホームゲーム後の“指揮者”イグアインは、恒例となった。エースストライカーは、チームとサポーターを団結させるシンボルでもあったのだ。