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パスをつないだゴールは1つもない。
U-23の最終形はどんな「柔軟性」?
posted2016/02/05 10:30
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph by
Takuya Sugiyama
2016年は始まったばかりだが、サッカー界では流行語大賞の候補作品が生まれている。
「柔軟性」と「割り切り」だ。
リオ五輪アジア最終予選を兼ねたAFC U-23選手権で、日本を優勝へ導いた手倉森誠監督が打ち出すチームコンセプトである。
16カ国が3つの出場権を争うサバイバルを制するために、48歳の指揮官は「派手なパフォーマンスはいらない。手堅く守って点を取る」という戦いをチームの針路とした。「点を取れなければ取らせるな」と選手たちに語りかけ、やがて「点を取らせないで取りにいけ」と言葉のニュアンスを変えた。
そのための手段が、「柔軟性」と「割り切り」である。
ゲームの位置づけ、試合の流れ、スコア、相手の勢いなどを見極め、戦いかたに柔軟性を持たせる。相手の攻撃を割り切って受け止めるのはもちろん、攻撃においても「割り切り」の具体策を授けた。「タテに速い攻め」を選択肢に加えた。
ダブルボランチの一角を担う遠藤航は、奪ったボールを素早くタテにつけることができる。監督がチームでもっとも信頼を寄せるキャプテンの特徴を生かす意味でも、最終予選を見据えたオプションは有効だった。実際に、タイとの第2戦で遠藤はワンタッチでタテパスを入れ、鈴木武蔵の先制ボレーをアシストしている。
実は2年前から使われていたこの2フレーズ。
最終予選が開幕する以前から、手倉森監督は「柔軟性」と「割り切り」の重要性を強調していた。世間的には'16年1月に発信された流行語だが、チーム内では'14年1月の立ち上げから聞かれていたフレーズである。
「自分たちの強みを発揮すれば、勝てる試合はあるかもしれない。でも、強みを消してくる相手に対しては、劣勢になることも覚悟する。勝負に徹した戦いも、できるようにしておく必要があった。それは戦略だけでなく、メンタルについても同じ。引いて守ってくるチームが怯んでいると思ったら、絶対にやられる。自分のメンタルも柔軟にコントロールできないと、足元をすくわれる」
攻守における「割り切り」は、一般的な日本サッカーのイメージとかけ離れたものだ。相手のロングフィードを立て続けに浴びる局面では、ボールをつなぐことよりもリスクを抑えることを優先した。オープンな蹴り合いのように見える時間帯も、なかったわけではない。
とはいえ、アジアのベスト8が分厚い壁となってきた世代を、一発勝負のトーナメントで勝たせる手段として、「柔軟性」と「割り切り」は現実的で有効だっただろう。