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パスをつないだゴールは1つもない。
U-23の最終形はどんな「柔軟性」?
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byTakuya Sugiyama
posted2016/02/05 10:30
仙台の監督時代も、手倉森監督はカウンターを軸にした戦い方で結果を残している。
何本もパスをつないだ末のゴールは1つもなかった。
では、手倉森監督は「日本らしさ」を切り離してしまっているのか。
そんなことは、ない。
サッカーの得点は、4つに分類できる。
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CKとFKのセットプレー、カウンターアタック、相手のミスやPKなどのアクシデントをきっかけとするもの、チームの特徴が発揮されたもの、である。セットプレーとカウンターアタックが得点の6割から7割を占め、残りふたつの要素の合計が3割から4割と考えられる。
バルセロナやレアル・マドリーのような規格外のチームは、チームの特徴が発揮されたゴールがもっと多いかもしれない。ただ、一般的には全体の2割か3割ほどである。
選手たちが「自分たちのサッカーをする」と口を揃えた'14年のブラジルW杯で、アルベルト・ザッケローニが率いたチームは「日本らしい形」から得点を奪ったか。コートジボワール戦の本田圭佑のゴールは、コロンビア戦の岡崎慎司のヘッドは、流麗なパスワークの仕上げとして生まれたものだったか。
答えは「NO」である。
リオ五輪アジア最終予選のチームは、6試合で15ゴールをマークした。何本もパスをつないだ末のゴールは、ひとつもない。その代わりに、リスタートをゴールへ結びつけ、カウンターからネットを揺らした。ミドルシュートや長距離砲も得点パターンとした。
自分たちの特徴を発揮したゴールは、爽快感や達成感を運んでくる。見栄えもいい。ただ、得点パターンは複数ある以上、リスタートもカウンターアタックも磨いたほうがいい。むしろ、磨くべきである。自分たちのサッカーができなくても得点できるチームになることが、実は自分たちのサッカーを際立たせることにもなる。
「耐えて勝つ」の先にあるもの。
「柔軟性」と「割り切り」というキーワードが、現実的なサッカーを浮き上がらせたのは間違いなかった。しかし、日本らしさが切り離されたわけではなく、弱者の戦術なわけでもない。
自分たちが得意とするサッカーに、過度に寄りかかってはいけない。
自分たちが得意とするサッカーに、自分たちで酔いしれてはいけない。
自分たちのサッカーは勝つための手段のひとつであり、それ自体を表現することが目的ではない──。「耐えて勝つ」というスタイルを通して、手倉森監督はフル代表にとっても重要なメンタリティをリオ世代に注入したのである。
もちろん、最終予選のサッカーは完成形ではない。23歳以下のアジア王者に君臨した直後、手倉森監督は「仕掛けて勝つのはこれから先」と話している。ロンドン五輪を上回る成績を誓う8月のリオまでに、チームはこれまでと違う「柔軟性」を身に着けていくに違いない。