サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
誰も引っ張らないのに、機能する。
久保と南野の発言に見るU-23の妙。
posted2016/02/05 07:00
text by
了戒美子Yoshiko Ryokai
photograph by
Takuya Sugiyama
U-23代表がリオ五輪の出場権を獲得し、常に“宿敵”と枕詞がつく韓国を決勝で下してのアジア制覇から約1週間がたった。あらためて振り返ると、手倉森誠監督率いる今回のチームは、なんとも不思議なチームだったように思う。
五輪出場権を獲得したイラク戦後の集合写真がとても象徴的だ。喜ぶ選手たちの前に、スーツ姿のまま滑り込む指揮官。シャンパンファイトよろしく水をかけられ、スーツもろともぐちゃぐちゃになった後ではあったが、羽目を外しているのは選手よりも監督だった。翌日用意された記者会見で、その時の心情を少々歯切れ悪く説明した。
「若い世代の選手たちにいつも元気出せ元気出せって言ってるのに……。そんなバカやる選手もいないですけど……。あの一瞬だけはおどけて見せたというか。そんなかんじ」
そして、一呼吸おいてオチを付け加えた。
「まあ、嫁からはしゃぎすぎってメールが来ましたけどね」
突出した個がなくとも機能したチーム。
多くの分析で勝因として挙げられるのは、第3GK以外全員を起用したターンオーバーを始めとする指揮官の手腕や、早川直樹アスレチックトレーナーの行う細やかなコンディション調整、世代別代表では極めて珍しく帯同させた西芳照シェフが提供する食事の充実ぶりだった。戦う選手個人よりも周辺にスポットライトが当てられた。
通常、こういった短期決戦であれば勝利の法則が生み出されたり、途中出場で必ずゴールを決めるラッキーボーイ的な存在が出現するもの。実際に現れなくても、メディアは仕立てたがるものだが、それもなかった。
不思議なのは、それでもこのチームが限りなく機能し、結果を出したということ。攻められながらも耐えて勝つ戦い方と、突出した個がなくても、まとまることで力を高めるというこのチームの在り方はうまくマッチしたようだった。期間中、選手たちは「雰囲気が良い」と口々に話していた。
久保裕也と南野拓実、2人の海外組にしたってそうだった。海外でプレーしているというだけで、Jリーグでは培われない何かがあるように思えてしまう。個人の能力に期待し、矜持、意地のようなものをつい勝手に求めがちだが、大会中はそんなものはみじんも見せなかった。