One story of the fieldBACK NUMBER
「打たれたら捕手のせい」は本当か。
落合と木戸が語る正捕手育成法。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byNanae Suzuki
posted2015/11/20 10:40
2015年シーズンは56試合の出場にとどまった梅野。打率は.239。来季の一層の飛躍が期待される。
鼻にティッシュを詰め、「話しかけないで下さい」。
殴られた痛みは覚えている。それでも、柴田コーチの教えはいまも己の芯として残る。
100%の準備をするために球場には一番早く来る。どんな場面でも最高と最低を同時に考える。いくつもの教訓を学んだという。
そして、捕手育成の典型的モデルとして述懐したのが、中日の一時代を支えた中村武志だった。同じ時代に戦った相手だが、覚えているのは鼻にティッシュをつめた姿だったという。
阪神-中日戦、木戸が打席に入る。状況的に内角を厳しく攻められると予想していた場面で、投手の制球がままならず、ボールが外れてしまう。次の打席、中村は鼻に血のにじんだティッシュをつめていたという。
「『武志、お前も大変やな』って話しかけると『勘弁してください。話しかけないで下さい』って。試合中に敵チームと話すと、どやされるらしいんだ(笑)」
当時の星野監督が愛情と鉄拳で中村を育て上げたのは有名な話だが、同じような境遇にいた木戸は、やはり、それが捕手教育の王道だと考えている。
「なんでいつも捕手のせいなんだ?」
ただ、同じ鼻血を目の当たりにしても、まったく別の見方もある。中日の落合博満GMだ。自軍も含め、正捕手不在を振ると、持論を明かした。
「そんなに、すぐ育つはずないだろ。何年もかかるんだよ。今は、みんなキャッチャーのせいにするじゃねえか。配球、配球って」
そして、落合も捕手育成と言えば、木戸と同じ光景を思い浮かべていた。
守りを終えてベンチに戻る。すると、ベンチ裏から戻ってきたチームメートの中村が鼻血をたらしていた。それが疑問だったという。
「(中村)武志なんか、いつも鼻血たらしていたよ。捕手が若ければ、投手が引っ張ってやればいいだろう。何年もやってる投手がいるんだから。なんでいつも捕手のせいなんだ」
落合は徹底した非暴力の人だ(もっとも選手にとっては何も言わず外されることの方が、殴られるより恐ろしいのかもしれないが……)。それもあるが、捕手だけに責任が帰結する“配球全盛時代”が正捕手不足の遠因であり、むしろ、経験あるベテラン投手が捕手を育てなければいけないという。
若い捕手が成長するまでの“時間”を我慢できなければ、永遠に正捕手など育たないというわけだ。