One story of the fieldBACK NUMBER
「打たれたら捕手のせい」は本当か。
落合と木戸が語る正捕手育成法。
posted2015/11/20 10:40
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Nanae Suzuki
2人の野球人が共通して思い浮かべたのは大の男が鼻血をたらした、その光景だった。
殴るべきか。
見守るべきか。
いまや、球界の課題とも言える「捕手育成論」は真っ二つに割れた。
晩秋を迎え、タイガースの補強戦略も収束へと向かっている。そんな中で球団関係者と深くうなずき合うことがあった。
「やっぱり、捕手やで。悔しいけど、ヤクルトは捕手で優勝したんちゃうか」
今シーズン、セ・リーグで100試合以上スタメンマスクをかぶったのは、ただ1人、中村悠平だけだ。そして、ペナントを制したのは、そのヤクルトだった。
優勝チームに“正”捕手あり――。
球史に残る名将の言葉を少しだけ、いじらせてもらえば、セの現状を表現できる。とにかく、どこにも正捕手がいないのだ。
「打たれたらキャッチャーのせい。よくしばかれたなあ」
タイガースの正捕手として、いま筆頭候補と言われるのが梅野隆太郎だ。来季、大学を出て入団3年目を迎える。
タイガースOBには、ちょうどその3年目に優勝、日本一を成し遂げた捕手がいる。現球団本部付次長の木戸克彦だ。球団史上唯一、優勝を経験した生え抜き正捕手である木戸はこう語る。
「どこかで、あれ以上苦しい経験はない、というのをくぐらないとあかんな。俺は最初の2年だった。打たれたら全部、キャッチャーのせい。柴田さんに、よくしばかれたなあ」
'85年、当時の吉田義男監督に正捕手として抜てきされた。強力打線を味方に、巧みなリードで日本一となった姿がクローズアップされるが、木戸自身はその前の2年間、二軍で殴られ続けたことが重要だったという。
二軍の試合で投手が打たれる。ベンチへ戻ると、当時のコーチ柴田猛(野村克也とともに南海を支えた名捕手)が鬼の形相で待っていたという。
木戸の常套手段はそのままトイレに駆け込み、怒りが収まるのを待つことだったとか……。
「でもな。今では感謝してる。ホームベースは銀行の窓口と一緒や。(チームの)貯金も、借金も、全部、そこでつくられるんや」