オリンピックへの道BACK NUMBER
無良崇人の進化を支える“成長志向”。
五輪から「逆算」しない、という道。
posted2014/11/08 10:40
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
11月1日、スケートカナダで無良崇人が優勝した。
「今までスケートをしてきた中で、いちばんいい試合でした」
その言葉のとおり、特にフリーは圧巻の演技を見せた。
曲は「オペラ座の怪人」。これまでたくさんのスケーターが使用し、今シーズンも複数の選手が選択する、フィギュアスケートの世界では非常にメジャーな曲である。
無良が用いたのは、今シーズンから解禁されたボーカル入りのバージョン。無良は、ボーカルの声の強さとマッチする力強い演技を見せる。
ジャンプへの入り方を変えた4回転も、2度とも安定感をもって決める。
演技が終わると、思わずガッツポーズ。
無良が自らの演技に得た手ごたえに応じるように、フリーの得点は自己ベストを大きく上回る173.24。ショートプログラムとの合計でも自己ベストの得点を見た瞬間、無良は涙を見せた。
「やれることをやっていないので嫌でした」
無良は2012-2013年のシーズン、グランプリシリーズ初優勝を果たしたほか、4年ぶり2度目の世界選手権日本代表に選ばれ、飛躍を遂げた。
だが、オリンピックイヤーとなった昨シーズンは苦しい1年となった。
グランプリ初戦となったスケートカナダの出来がよくなく、シーズン中に完成させられないと感じたことから、フリーのプログラムを前シーズンのものに戻さざるを得なくなった。
得意なはずのジャンプにも苦しみ、ソチ五輪代表選考対象大会の最後となった全日本選手権では6位にとどまった。
年が明けて1月、無良は自信を取り戻すための場として臨んだ四大陸選手権に出場し、初優勝を手にする。
全日本選手権後は、現役引退の選択肢も脳裏をよぎったという。それでも現役続行を決めての大会だった。
「やれることをやっていないので嫌でした」
思えば、引退へと傾かなかった理由は、オリンピックシーズンへの姿勢にもあったのではないだろうか。