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星稜の因縁、安楽の球速、名将の策。
甲子園に渦巻く野球観の相克を見よ。 

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中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byKyodo News

posted2013/08/07 11:50

星稜の因縁、安楽の球速、名将の策。甲子園に渦巻く野球観の相克を見よ。<Number Web> photograph by Kyodo News

7月26日の愛媛大会で、安楽智大は自己最速の157キロを記録。187センチ、85キロの体格をいかし、甲子園でさらなる記録更新を目指す。

 今大会、星稜(石川)に関しては、ふたつの「アベック出場」が実現した。ところが、ひとつは脚光を浴びているのに対し、もうひとつは不思議なほどまったく語られていない。

 ひとつは箕島(和歌山)との同時出場だ。1979年夏に伝説の名勝負、死闘18回を繰り広げた星稜と箕島がそろって夏の甲子園に出場するのは、箕島が最後に出た1984年以来、29年振りのことだ。

 もうひとつは今も語り継がれる「松井秀喜5連続敬遠」を1992年に演じた明徳義塾(高知)との同時出場である。こちらは1998年以来15年振りになる。

 オールドファンはもっぱら箕島と星稜の再戦を待望しているようだが、今年は大会初日に松井が高校生以来、21年振りに高校野球の舞台にやって来るという縁も考えると、星稜と明徳の再戦も見てみたいものだ。

 箕島対星稜のように同じ匂いを持つチーム同士の戦いではないかもしれない。わかりやすく言えば、5つの敬遠について、星稜の当時の監督、山下智茂は「逃げ」だといい、明徳の監督、馬淵史郎は「作戦」だと言った。両者の間には広くて深い溝がある。しかし毎年4000校近いチームが参加する高校野球の魅力のひとつは、そうしたさまざまな野球観の相克なのだ。考え方の違いは当然あっていい。

 そういう意味で、ひとつの極にあるのが日大三(西東京)だろう。

 少数精鋭主義。そして、野球場、室内練習場、寮などが一体化し、監督の小倉全由が「日本一」と誇る施設でそのエリートを徹底的に磨く。2011年夏、圧倒的な打力で全国を制したことは記憶に新しい。

 おそらくここ10年で日大三はもっとも破壊力のあるチームだ。

大阪桐蔭は一部の打者だけだが、日大三は全員が強打者。

 2006年、その日大三を倒し、全国制覇を成し遂げた早実(西東京)は甲子園で中田翔を擁する大阪桐蔭とも対戦している。捕手の白川英聖は両校の違いをこう話していたものだ。

「大阪桐蔭は打てる打者が限られている。でも日大三は1番から9番までみんなホームランを打てる。だから抜くところがないんです」

 エースの斎藤佑樹も大阪桐蔭戦の前、「日大三高をイメージしてやれば抑えられると思う」と自信を見せていたものだ。

【次ページ】 盤石の日大三。唯一のポイントになるのが投手力。

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