MLB東奔西走BACK NUMBER
上原浩治が急に化けた!?
絶好調の鍵は二重の“緩急”。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2010/09/20 08:00
9月15日現在で上原の成績は1勝1敗9S、防御率は2.48。奪三振数は40になる。オリオールズも8月を勝ち越し、9月15日までで9勝5敗と好調だ
「速球派投手とは何か」と問われたとするならば、どんな投手像を思い浮かべるだろうか。
一般的に想像するのは以前のコラムで紹介した時速160kmを超える球を操るアロルディス・チャプマンのようなタイプだろう。だが、そんな人々の一般認識を覆すような投球を披露している男がいる。オリオールズの上原浩治投手だ。
上原といえば巨人時代からフォークのイメージが強かったが、ここ最近の投球を見ていると確実に速球(今回は「真っ直ぐ」と表現せず「速球」に統一したい。その理由は後述する)を進化させ、まさに速球派投手だと唸りたくなるような投球を展開している。
7月にショーウォルター氏が新監督に就任し、上原をクローザー役に指名(指揮官はあくまで試験的な起用を強調)してからというもの、次々にセーブを積み上げる好投を続ける理由も、速球にある。
140km前後のスローボールを速球に見せる上原流投球術。
とはいえ、35歳になった上原が大幅な球速アップを実現したわけではない。現在も時折140km台後半を計測するが、基本的には140km前後。それでも上原本人が説明するように、「あんな遅い球でも空振りがとれる」投球をメジャーの強打者たち相手に披露しているのだ。
もちろん変化球を交え、速球をより速く見せるという投球術を上原が駆使しているのは言うまでもない。
だが、9月11日のタイガース戦で見せた投球はそんな投球術を超越したものだった。
9回、5-3でリードしている場面で登場し、中飛、空振り三振、空振り三振という三者凡退に抑え、今季9セーブ目を挙げたのだが、打者に投じた17球すべてが速球だったのだ。しかも球速掲示は時速86~89マイル(約138~143km)。それも打者の目先を変える変化球を使わずに、2つの三振を奪っているのだ。メジャーの名だたる速球派投手でも滅多に見せない投球術だった。
成功の理由は2つあると見ている。
まず1つは、上原の言葉を借りると「いろいろ動かしたりしている」。メジャーではカッターやツーシームといった“動く速球”を投げるのが一般的。これらは通常の速球よりもややスピードが落ちるので、「速球」の中でも微妙な緩急をつけているというわけだ。