プレミアリーグの時間BACK NUMBER
ファーガソン引退は、なぜ今なのか?
錯綜する報道と後任をめぐる思惑。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2013/05/09 11:45
クラブからファーガソン監督引退が発表された5月8日に、オールド・トラッフォードのスタジアム外壁に張り出されたポスター。
対抗馬としてモウリーニョ、そしてクロップも。
そのハードルが苦にならない対抗馬は、レアル・マドリー離脱が濃厚なジョゼ・モウリーニョ。チェルシー復帰が内定済みとまで報じられていたが、今季のCL対決で下したマンUに示した同情と敬意は、転職活動の一環と受け取れなくもない。
当人が古巣への愛情を抜きに判断すれば、ファーガソンの後継者としてのマンU入りは、レアル後のステップダウン感を避けられる唯一の選択肢だと言える。同時に、「後任の引抜き交渉は円満かつ早急に終了」と報道したスポーツ専門ラジオの『トーク・スポーツ』のように、モウリーニョではなく、大物獲得に頼らず若手登用の意識を持つユルゲン・クロップをドルトムントから招聘するという見方もある。
いずれにしても、新監督が背負うプレッシャーは絶大だ。
ファーガソンが役員兼親善大使として残留するとなれば尚更のこと。世界一の名将から助言を請えるメリットはあるが、比類のないほど巨大な前監督の影がつきまとうデメリットもある。言わば、夢と悪夢が背中合わせの新任地だ。
一方、現場を去るファーガソンは、後任がモイーズとなれば、外国人監督の多さが嘆かれるプレミアにあって、国産監督に最高のチャンスを与えたとして讃えられるだろう。
急転直下でモウリーニョならば、招聘を試みたチェルシーとマンCに、来季開幕を待たずに先勝するようなものだ。
「生涯勝率約6割」の名監督、公式戦最終日は5月19日。
そして、今季の残り2週間は、ファーガソンの「功労ウィーク」さながらの雰囲気の中で進行するに違いない。
最後のホームゲームとなる12日のスウォンジー戦では、優勝セレモニーが予定されており、7万人の観衆が見守る中で監督として最後の優勝トロフィーを掲げることになる。
ファーガソンのみならず、引退声明の中で、「“あなた方のクラブ”を率いる機会を得たことは光栄の極み」と、最大級の謝辞を贈られたファンにとっても、エモーショナルなお別れ試合だ。翌週のウェストブロムウィッチでの最終節(5月19日)は、監督としての公式戦最終試合にして、マンUでの通算1500試合目という、これまた前人未到の一区切りでもある。
1498試合終了時点での勝率は約6割。
つくづく、最大級のスポットライトを浴びて表舞台を去るに相応しい監督界の偉人だ。
まずは、過去27年間における功労に敬意を示し、今夏の手術の成功を祈りつつ、「勝者の中の勝者」引退の花道を見守りたい。