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「別人格が降りてきた」名人・藤井聡太に挑んだ永瀬拓矢の“変貌”「一時は評価値でリードも」藤井の桂馬が飛行機のように…羽田空港で見た“2人の物語”
posted2025/05/07 11:29
研究に研究を重ねて藤井聡太名人に挑んでいる永瀬拓矢九段
text by

いしかわごうGo Ishikawa
photograph by
Number Web
勝負の2日目「別人格が降りてきた」永瀬拓矢の“変貌”
永瀬拓矢九段の後手番で迎えた名人戦第2局。
盆も正月もなく日々研究に没頭していると言われている挑戦者は、序盤の駒組みで、8手目で△3三角と出た。
名人相手に誘導したのは、やや変則的な角換わりだった。
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そこからの角交換に同金としたことで、「3三金型角換わり」となっている。意表を突いた形ではあるが、研究の鬼として知られる永瀬九段のことである。名人相手にも指しこなす自信があってこその作戦だったに違いない。
慎重な対応を求められる戦術を突きつけられたことで、藤井聡太名人は序盤から考慮を重ねた。藤井に時間を消費させていく展開に持ち込み、挑戦者の永瀬としては悪くない流れだったはずだ。「永瀬の秘策に藤井が打開を模索する」というのは、この対戦における定番とも言える構図でもある。1日目の永瀬の作戦は奏功しているようにも見えた。
封じ手の開封から始まる2日目の見どころは、「千日手含みの膠着した展開を、藤井名人がどう打開するのか」だった。ところが、封じ手以降、待機策を続けていた挑戦者が一転。積極的に仕掛けていくという意外な展開となっていった。
この変貌は同業者である棋士たちにとっても驚きだったらしい。
解説会に現れた阿久津主税八段が「急に別人が来たというか……」と評せば、広瀬章人九段も「1日目の永瀬さんと2日目の永瀬さんは違うってことですよね」と相槌を打つ。「でも封じたのは1日目の永瀬さんなので。封じ手の局面で別人格が降りてきたのかな」というやりとりをしていたほどだ。
対局中は動きも言葉もなく、いくら考えても棋士の内面を見通すことはできない。だが棋士というのは、その内面には猛獣を飼っているものだ。トップ棋士であれば、なおさらだろう。

