スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
名将もエースFWも今季限りか……。
マラガを熱狂させた勇者たちの苦悩。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2013/05/14 10:30
昨年にはA代表にも招集されたイスコ。マラガの宝と呼ばれる21歳は、今夏の去就が注目される。
0-0で迎えた92分。ドゥダがゴール前に送ったフリーキックを数人の選手が競り合い、ボールがジュリオ・バチスタの足元へとこぼれる。バチスタの右足がそのボールを捉え、ゴールネットが緩やかに揺れた瞬間、ラ・ロサレーダのスタンドを埋め尽くす3万人の“マラギスタ”の感情が一斉に解き放たれた。
4月13日、ホームにオサスナを迎えたリーガ・エスパニョーラ第31節。ロスタイムのラストプレーで生まれた劇的な決勝点は、奈落の底に突き落とされた4日前のチャンピオンズリーグ準々決勝での敗退とは対照的な歓喜を、マラガの人々にもたらした。
ドルトムントとのアウェー戦に挑んだ4日前、マラガは後半ロスタイムに喫した2失点、それも最後のゴールは3つのオフサイドが連続して見逃された末に生まれるという不条理な形で、準決勝進出の望みを断たれていた。
試合終了後、すぐミックスゾーンのテレビの前に集まり問題のゴールシーンを確認した選手達からは怒りのコメントが相次いだ。
「UEFAから処分を受けているクラブが決勝へ勝ち進むのは都合が悪かったのだろう。我々は偉大な試合をしたが、我々の勝利は望まれなかった」
常に冷静沈着なペジェグリーニまでもが痛烈にレフェリーとUEFAを批判していた。
処分を下したUEFAへの怒りを力に変えてきたが……。
昨年12月、マラガは所属選手への給料や他クラブへの移籍金といった支払い義務の不履行を理由に、次のUEFA主催大会への出場資格をはく奪された。
UEFAが突然に下したこの厳罰に対し、マラガはCAS(スポーツ仲裁裁判所)を通して訴えを起こしている。UEFAはそんなクラブが勝ち進むことを望んでいない。彼らがそう考えたとしても無理はなかった。
そんな後味の悪さと共に夢の舞台から引きずり降ろされた彼らは、その後再び厳しい現実に直面しはじめた。
「CLで背負ったトラウマを拭い去るのは簡単なことではなかった。だがチームはフィジカル面でもプレー面でも見事に応えてくれた」
ペジェグリーニが誇らしげにそう語ったオサスナ戦では、いわば選手達はUEFAへの怒りをモチベーションとエネルギーに変えて戦っていた。だが、それも長くは続かない。初挑戦のCLとリーガの上位争いを並行し、ハイレベルな連戦を重ねてきた選手達の多くは、既に心身共に限界に達していたからだ。