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ファーガソン引退は、なぜ今なのか?
錯綜する報道と後任をめぐる思惑。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2013/05/09 11:45

ファーガソン引退は、なぜ今なのか?錯綜する報道と後任をめぐる思惑。<Number Web> photograph by Getty Images

クラブからファーガソン監督引退が発表された5月8日に、オールド・トラッフォードのスタジアム外壁に張り出されたポスター。

 ただただ、「ショック」の一言。

 現地時間の5月8日午前、マンチェスター・ユナイテッドが発表した、アレックス・ファーガソン監督の引退にイングランドは揺れた。

 何事にも永遠はなく、71歳の大ベテラン監督が、就任27年目で身を引いても不思議はないはずだが、ファーガソンに限っては現役続行しかあり得ないと思われた。引退の可能性が指摘された昨季、地元の宿敵、マンチェスター・シティに逆転優勝を許したことで、生来の負けん気に火がついて翻意を決めた後は、2015年までの続投が定説となっていたのだ。

 他ならぬファーガソン自身が、「早々に身を引くつもりはない」とコメントしたのは、引退発表の僅か3日前のこと。突如として「勇退検討中」の噂が流れた発表前夜でさえ、報道は「週末前に何らかの発表がある見込み。来季開幕時の一時的な代行監督指名の可能性もあり」というものだった。

 今夏に股関節置換の手術が予定されているマンUの御大は、来季開幕には間に合わないが、術後の養生でバッテリーを充電して現場に戻ると見られていた。結果として発表当日の朝刊も、扇動的な大衆紙でさえ、『デイリー・ミラー』紙は「終焉間近」、『デイリー・スター』紙が「引退目前」とするなど、「未決定」のニュアンスを残す見出しに留まった。発表直後、BBCラジオのインタビューを受けた往年のマンU・MF、パット・クレランドすら、「昨日オールド・トラッフォードにいたが、監督引退の空気は全く感じ取れなかった」と言うのだから、外部の人間が引退を察知できるはずがない。

欧州サッカー界でも圧倒的な戦績を誇る名将中の名将ファーガソン。

 まさかの事態を受けて、メディアには引退を惜しむ声と功績を讃える声が殺到。

 マンUの名将といえば、20世紀半ばに黄金期を築いたマット・バスビーがいるが、イングランドの選手協会責任者ゴードン・テイラーは、「バスビーの伝統を踏襲し、バスビーを超えた」とファーガソンを評した。選手サイドからは、快足は鈍ってもツイートは素早いマイケル・オーウェンが、昨年までの3年間を過ごしたマンU監督に、「選手として仕えることができて光栄だった。世界史上最高の監督」とコメントを発信した。

 改めて報じられたマンUでの実績は、言うまでもなく圧巻。

 優勝回数は、筆者が見ていたBBCツイート速報の小さな枠内では、数が多すぎて数えるのが面倒なほど。プレミアリーグでの13回を筆頭に、プレミア開幕前哨戦に当たるコミュニティー・シールドや、FIFA主催のクラブW杯なども含めれば、合計38個のタイトルをクラブにもたらしている。かねがね、本人が「不十分だ」と言っていたCL優勝にしても、回数こそ2回だが、うち1回は国内カップ選手権二冠と合わせたトレブル達成の偉業というインパクトだ。

【次ページ】 「できる限り最高の環境で後任に引き継ぐため」

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