スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
CL制覇で勇退か、敗退で解任か──。
勝利至上主義者モウリーニョの落日。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byDaisuke Nakashima/AFLO
posted2013/01/23 10:31
1月15日の国王杯バレンシア戦後には、エースのC・ロナウドとも口論があったと伝えられたモウリーニョ。
舌禍が求心力の低下を招き、チーム力も落ちる悪循環。
昨季まで猛威を奮っていたマドリーの“プレス&ショートカウンター”対策として、今季は引いてゴール前のスペースを消し、マドリーに遅攻を強いるライバルが増えた。
遅攻のオプションの欠如は以前から指摘されてきた課題だったが、堅守速攻のスタイルを確立した今も、モウリーニョはその点についてさしたる解決法を提示していない。鍵となるべき新戦力のモドリッチが不慣れなダイレクトプレーの中で消えてしまっているのがその証拠だ。
一方でモウリーニョはチームが勝ち点を取りこぼす度、メディアを通して選手達が犯したミスやプレー態度を批判してきた。それが以前から対立関係にあったスペイン人派閥のみならず、その他の選手達の求心力をも失うことにつながっているのである。
選手が言うことを聞かなければ、結果を出すのは難しくなる。そしてチームが結果を出さなければ、これまでその言動に目をつぶってきたファンやメディアの風当たりは厳しくなってくる。
「メンバーを選ぶのは監督だ」と絶対的な権力を誇示。
そんな悪循環が続いていた昨年12月、モウリーニョは年内最後の一戦で厄介なクリスマスプレゼントを残していった。怪我をしたわけでもないのに主将のカシージャスを先発から外し、第2GKのアダンを起用したのである。
マラガに3-2で敗れた試合後の会見にて、モウリーニョはその理由について「純粋に戦術的な理由に基づく決断」という形だけの説明をした上、「君達記者は好きなように理由を作り出せばいい」と言い残した。さらに数日後にドバイで行われたフットボールカンファレンスでは、次のような挑発的発言を発している。
「先週は試合には敗れたが、私にとってはファンタスティックな一週間だった。単純な結論に達したからだよ。フットボールは変化していくものだが、変わらないことが1つある。メンバーを選ぶのは監督だということだ」
2年前にモウリーニョとの対立が原因でクラブを追われた元ゼネラル・ディレクターのホルヘ・バルダーノは、これは自身のやり方に従わないスペイン人派閥に対する「権力の誇示」だと形容した。
だがファンとメディアの絶大な支持を誇るカシージャスを敵に回せば、自身の立場が圧倒的に不利になることはモウリーニョも分かっていたはずだ。つまり彼は、「俺にはお前らの大好きなカシージャスを外す権利がある」と言わんばかりの挑発行為を確信犯的に行ったのである。