南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
“フランスW杯戦士”平野孝が分析。
日本代表ベスト16、最大の理由とは。
text by
平野孝Takashi Hirano
photograph byFIFA via Getty Images
posted2010/06/27 18:10
選手の特徴を見極める岡田監督の観察能力。
僕は、ワールドカップから8年を経て横浜F・マリノスに移籍し、再び岡田監督の下でプレーすることになった。今度は、クラブチームだから代表よりはるかに一緒に過ごす時間は長い。マリノスに在籍したのは1シーズンだけだったけど、代表のとき以上に岡田監督のことを深く知ることができた。
そのときに感じたのは、選手に対する観察能力、選手の特徴を把握する力がすごい、ということだった。
岡田監督は、ひとりの選手に対して使い方のオプションを2~3パターンは持っている。選手の特徴をよく把握していて、その選手がどういうプレーができるのかを見極めているのだ。だから、本田の1トップも、デンマーク戦の大久保のトップ下も、それぞれの選手の可能な範囲内でのチェンジに過ぎない。決して思いつきでも、大きな変更をしているわけでもない。だから結果が出ても、僕はなんら不思議に思わなかった。
岡田監督は、普段から選手をよく観察している。試合、練習、合宿、日常の生活をふくめてすべての面で。だから、選手の不調を察するとちょっとしたときに声をかけてくれる。選手はそれだけで嬉しいものだ。「自分のことを見てくれているんだ」とね。
そして試合のときは選手にある程度自由を与える。特に攻撃面において。土台には岡田監督の戦術があるが、試合をしているのは選手だからという考え方で、自由を与える。
だから、3試合を通じて、選手にとって窮屈なプレーはないように見えた。選手はやりやすいはずだ。
スムーズなシステム変更は監督と選手の信頼関係の証。
監督と選手の信頼関係は今の日本代表でも築かれていると思う。3試合にかける意気込み、日本が勝つために何をしなければいけないか。それらが統一見解としてチームに浸透していることが、プレーを通じてすごく伝わってくる。デンマーク戦で早々に選手がシステムを変えたのも、監督の意図が伝わっていたからだと思われる。しっかりと様々な場面を想定したスカウティングができていて、こういう状況にはこう対応するといった共通理解があったのだろう。それが自然にできたのは、みんなが同じ方向を向いていたからではないだろうか。
あの場面で、ひとりでも違う考えの選手がいたら、うまくいかない。「違うだろ」と思う選手がひとりでもいればシステムはバラバラになってしまう。
岡田監督はそういう意味で、いい選手に恵まれている。闘莉王みたいな選手も、本田のような選手も必要。同じようなタイプの選手ばかりでは勝てない。本田は当初マスコミが言っていたような“王様”タイプの選手ではない。“フォア・ザ・チーム”に徹することもできるクレバーな選手だ。ビッグマウスなところも含めて日本サッカー界にとっていい人材ではないか。
選手たちは今、自信を持っているだろう。パラグアイは難しい相手だが、日本の選手たちは、いい意味で“吹っ切れて”いるだろうから大丈夫。きっと勝てると思っている。
日本代表は今大会のベスト16に相応しいチーム。ぜひ新しい歴史を作って欲しい。