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“フランスW杯戦士”平野孝が分析。
日本代表ベスト16、最大の理由とは。
text by
平野孝Takashi Hirano
photograph byFIFA via Getty Images
posted2010/06/27 18:10
12年前は手探り状態。でも日本はもう初心者ではない。
今回の戦い方を観ていて、僕たちが初めてワールドカップに出場した時と比べて、本当に色々なことが進歩しているな、と痛感させられることが多かった。
12年前のフランスワールドカップ、僕たちの初戦の相手はアルゼンチン。僕は後半39分からの途中出場で、わずかな時間しかピッチに立たなかったけれど、アルゼンチンの強さを身をもって感じさせられた。結果は1-0の僅差、でも実際は完敗だった。彼らは、勝ち点3を取るための戦い方をよく知っていた。日本がボールをキープする時間もあったけど、それはボールを持たされていただけ。あるエリアまでは持たせてくれる。でも、一定のライン以上ゴールに近づくと、絶対に持たせてくれなかった。ワールドカップ出場常連国の戦い方は別格だった。
あのときは、岡田監督も選手もスタッフもマスコミも、みんな手探り状態だった。でも今回は違う。日本はもう初心者ではない。過去3度のワールドカップで得た経験は本当に大きい。
みんな覚えていないかもしれない。知らないかもしれない。3連敗で終わった'98年のワールドカップがあるから今日があるということを。僕らも4度目だったらもっと出来たはず。あのときは、全てが初めてで何もかもわからないことばかりだった。
オランダ戦の“0-1”は、最高のスコアだった。
さて、続くオランダ戦。0-1という結果は”最小限の負け"、ほとんど勝ち点1に等しい。もし大差で負けていたら、デンマーク戦の戦い方も変わってくるし、結果も変わっていたかもしれない。それに、オランダ戦を0-1で終えた時点で、カメルーン戦を控えていたデンマークにプレッシャーを与えられたことも大きい。日本は、冷静に自分たちの状況を理解していたのではないかと思う。単に強豪相手に善戦したからではなく、グループリーグ突破の可能性を大きく残したという意味で、0-1は最高のスコアだった。
次のデンマーク戦、日本代表は、“引いて守って、カウンターで攻める”という姿勢を明確に打ちだした。長谷部や長友がゴール前に飛び込んでいったように、それまでは各ポジションに留まっていた選手たちがシュートを打つようになった。これまでの試合と違い、守るだけでなく非常に積極的に攻撃に出て、惜しいチャンスを何度も作った。
デンマークは勝たなければ後がないという状況で、試合開始早々から攻撃をしかけてきた。どちらが先制点をとってゲームの主導権を握るのかが、この試合では極めて重要だった。日本が先制し、1-0、2-0と進んでいく中でデンマークが焦れていった様子を思い出してほしい。