Jリーグ万歳!BACK NUMBER
今季Jリーグのキーワードは“縦”!!
ポジションレス時代に呼応する新世代。
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byAFLO
posted2013/01/05 08:01
広い視野に裏付けされた展開力とともに、無回転のミドルも併せ持つ広島のボランチ、青山敏弘。2012年Jリーグベストイレブンに初選出された。
縦に仕掛けられるか――。記者である自分が選手を見る際に頭に置いているキーワードの一つである。
GKなら迷うことなく一歩を踏み出して相手の足下に飛び込めるか、ボールキープ時にはパスコースの一つとなり得る足下の技術を備えているか。DFなら相手の前に体を入れてインターセプトを狙えるか、また、時には決定機に直結する縦パスを供給する攻撃センスを備えているか。MFなら前方のスペースに自ら飛び込めるか、チームメートを縦に動かせるパスを出せるか、あるいはドリブル、パス、シュートと手段を問わず、相手に“縦”を警戒させる怖さを持っているか。FWならファーストコントロールがゴールに向かっているか、それから、後方からの縦パスを引き出す動きができるか――。
ピッチに立つ11人にはそれぞれに役割があり、スタイルがある。それを有機的に組み合わせて初めてチームとしての力が最高点に到達することは間違いない。例えばハンス・オフトが率いた時代の日本代表のように、“分業制”を徹底してチームの完成度を高めようとした時代もある。
ポジションのボーダーレス化時代で重要な「縦への意識」。
しかし現代サッカーにおいては、ポジションによる能力の区別はかつてに比べてなくなりつつある。
ポジション間のコンバートが頻繁に行われ、一人の選手が複数のポジションをこなすケースももはや珍しくない。長谷部誠や細貝萌のように、ボランチを本職とする選手が状況に応じてサイドバックをこなすこともある。その逆もしかりだ。
FWには守備への献身性が当たり前のように求められ、センターバックには攻撃の起点となる展開力が必要とされる時代だ。つまり現代サッカーにおいては、ポジション別の役割分担こそあれ、求められる能力は比較的近い。
そこで選手の評価を分ける一つの要素となるのが、「縦への意識」である。
サッカーはゴールを奪うスポーツであるから、極端に言えば、前にボールを運ばなければ意味がない。横パスもバックパスもあくまで“縦”に仕掛けるための準備であり、タイミングを外し、時間を作るためのフェイクである。
しかし目の前に相手がいて、しかもミスが失点につながる緊張感の中で自ら一歩踏み出すことは、どのポジションにおいてもそう簡単ではない。たとえ自ら縦に仕掛けなくとも、1本のパスやシュート、指示の声やポジショニングでチームメートを縦に“仕掛けさせる”ことは容易ではない。だからこそ、そこには単なる技術的な要素としてではない能力の“差”が生まれる。