欧州CL通信BACK NUMBER
チェルシー悲願のCL制覇を達成した、
モウリーニョ門下生達が見せた“魂”。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byMaurizio Borsari/AFLO
posted2012/05/21 12:15
ビラスボアス監督のもと、極度の不振に陥っていたチェルシーだが、3月初旬にディマッテオ監督が就任すると調子を上げ、欧州の頂点へと駆け上がった。
チェルシーの「信念」は揺るがなかった。今季のCLで、敗退の危機を幾度も乗り越えてきた集団は、“敵地”アリアンツ・アレーナでの決勝でも、チーム本来のサッカーに対する自信と、悲願の欧州制覇への執念を胸に、勝利を実現した。
立ち上がりからバイエルン・ミュンヘンに押され続けても、うろたえる様子は見られず。致命傷と思われた83分の失点は、5分後に帳消しにして、延長戦へと望みをつないだ。そして迎えた、運命のPK戦。0対1のスタートに悲劇が予想されたが、最終的には4対3で歓喜のフィナーレを迎えたのだった。
「折れない心」。この無形にして強大な力なくして、チェルシーの優勝はあり得なかった。
試合内容を示す数字に見るバイエルン対チェルシーは、ポゼッションの割合が6対4、CK数が20対1、シュート数が35対9など、ことごとくバイエルンに軍配が上がっている。マリオ・ゴメスが、前半だけで2度の好機を逃すなど、早めに試合を決められなかったとはいえ、トーマス・ミュラーがヘディングで先制し、すぐさまダニエル・ファンブイテンを投入して守備を固めたバイエルンは、戦前の予想通りに勝利を収めるかに見えた。
バルセロナとの準決勝を再現するかのような守備ラインの低さ。
しかし、実際には、一方のチェルシーもプラン通りに戦っていた。表面的には劣勢でも、選手たちは、内心で自分たちのペースだと思いながら守備に奔走していたはずだ。バルセロナとの準決勝を再現するかのようなラインの低さは、傍目には想像以上だった。堅守を意識するにしても、主力3名の出場停止で守備力低下が見込まれたバイエルンには、高い位置でのプレスに一理あると思われた。だが、ロベルト・ディマッテオ(暫定)監督は、ひたすら堅守を徹底した。
ライアン・バートランドの左ウィンガー起用も、奇策ではなく、チーム内では、従来の戦法を貫く上で最適な手段として選択されたに違いない。たしかに、左SBが本職の22歳は、決勝スタメンでCLデビューという大抜擢を受けた。中盤での起用はリーグ最終節の後半で試されてはいたが、運動量の豊富なFW、ダニエル・スタリッジを使う手もあった。
だが、指揮官は、2列目でバートランドを使い、アリエン・ロッベンとフィリップ・ラームの相手右サイドを沈静化するために、守備能力を最優先した。同サイドにDFを追加することにより、アウトサイドのサポートにCBのダビド・ルイスが飛び出し、中央に隙間が生まれる事態を極力避けようとした。