欧州CL通信BACK NUMBER
チェルシー悲願のCL制覇を達成した、
モウリーニョ門下生達が見せた“魂”。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byMaurizio Borsari/AFLO
posted2012/05/21 12:15
ビラスボアス監督のもと、極度の不振に陥っていたチェルシーだが、3月初旬にディマッテオ監督が就任すると調子を上げ、欧州の頂点へと駆け上がった。
失点時を除き、ほぼ完ぺきな守りを見せたA・コール。
バートランド自身の出来は、交代までの73分間で及第点止まりだったが、守備能力の高いサポート役が手前にいる安心感が、アシュリー・コールに、ほぼ完璧な守りを可能にしたとも言える。31歳の左SBは、48分にはロッベン、53分にはゴメスとの1対1を無難に処理し、59分にはロッベンのシュートを、75分にはフランク・リベリーのクロスをブロックするなど、体内に磁石が備わっているかの如く、ボール保持者に体を寄せては危機を回避した。
惜しむらくは、逆サイドからのクロスに対し、背後のミュラーをフリーにした唯一のミスが失点につながったことだろう。とはいえ、ジョン・テリーを出場停止で欠き、代役のギャリー・ケーヒルは故障上がりで足がつりそうになり、右SBのジョゼ・ボシングワが案の定リベリー封じに苦戦していた最終ラインにおいて、度重なるクリアやブロックでリーダーシップを発揮したのはコールだった。
頼れる男が、決めるべき時に決めた同点ゴールに沸く大観衆。
覚悟の上の劣勢で、ベンチワークにも焦りはなかった。フェルナンド・トーレス投入も、結果的には失点直後になったが、元々、ラスト10分の投入に向けて準備が進められていた。ピッチに残ったディディエ・ドログバとは、CFと右サイドを交互に担当。この併用も、リーグ戦最終節で試された起用法だ。土壇場で追う立場に追い込まれても、チェルシーは慌てなかった。だからこそ、文字通りの“ワンチャンス”を物にすることができた。
88分、トーレスがタッチライン沿いを走り、チーム初のCKを奪った。キッカーはフアン・マタ。チェルシーの「10番」は、防戦一方の展開にチャンスメイクのきっかけすら掴めずにいたが、ピンポイントのクロスをドログバに届けた。これまで、1トップで先発したエースは、バスティアン・シュバインシュタイガーに張り付かれ、フランク・ランパードらが試みた数本のロングパスも、楽には受け取らせてもらえなかった。利き足を振り抜く機会は、30m以上の距離からボレーを狙った51分の1場面のみ。
しかし、ニアポストへのクロスにジャンプ一番でヘディングを放つと、ボールはノイアーの手を弾いてネットに突き刺さった。頼れる男が、決めるべき時に決めた同点ゴール。ショックの色を隠せないバイエルン陣営を尻目に、17500人のチェルシー・サポーターは「スーパー・チェルシーFC! 俺たちほどの豪傑はない!」と歌い上げた。