欧州CL通信BACK NUMBER
チェルシー悲願のCL制覇を達成した、
モウリーニョ門下生達が見せた“魂”。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byMaurizio Borsari/AFLO
posted2012/05/21 12:15
ビラスボアス監督のもと、極度の不振に陥っていたチェルシーだが、3月初旬にディマッテオ監督が就任すると調子を上げ、欧州の頂点へと駆け上がった。
神経を研ぎ澄まして最後尾に控えていたチェフの活躍。
延長戦に入って間もなく、チェルシーはPKを奪われるのだが、それさえも選手たちは切り抜けられると信じていたはずだ。
リベリーを後ろから倒したドログバに弁解の余地はないが、同様の窮地はバルセロナ戦でも経験済み。しかも、天下のリオネル・メッシがPKに失敗したのだ。この時ドログバは、ルイスから「信じるんだ」と発破をかけられ、マタからは「もし決められても、点を返す時間は十分にあるさ」と声をかけられたと、試合後に明かしている。直後、ロッベンのPKをチェフが止めたことで、勝利への確信は更に強まったことだろう。
ドログバが「この男がゴールにいる限り」と太鼓判を押すチェフは、納得尽くの防戦の中で、神経を研ぎ澄まして最後尾に控えていた。
チェルシーの守護神は、至近距離からのロッベンのシュートを、咄嗟に右足で防いだ21分の時点から乗っていた。優勝を懸けたPK戦でも当たっていた。ラームに決められた1本目も、その手はボールに触れている。イビチャ・オリッチの4本目を横っ飛びで弾いたセーブが、マタの失敗を帳消しにしてPK戦を振り出しに戻した。自軍では、ルイス、ランパード、コールの3名が、立て続けに、セーブなど不可能な強烈なPKに成功。相手5人目のシュバインシュタイガーは、プレッシャーの中で精度を意識しすぎてポストを叩いた。もちろん、チェフはシュートの方向に反応していた。
「決められると信じて蹴ることができた」(ドログバ)
3対3で、決めれば優勝の自軍5番手はドログバ。当人は、4年前の「暗い過去」を試合前に認めていた。退場を命じられた自身の代わりにPKを蹴って外したテリーが、「毎日のように思い出す」と言っていた、モスクワでのCL決勝敗退の記憶だ。
34歳のCFには、今回がCL優勝を狙う最後のチャンス、そして、今夏で契約が満了するチェルシーでの、最後の一蹴りになるかもしれないというプレッシャーもあったはずだ。にもかかわらず、ドログバは、「勝利を信じて戦ってきたチームのためにも」と心に誓い、「決められると信じて蹴ることができた」と言う。右足インサイドでのPKは、マヌエル・ノイアーの逆を突き、ゴール左隅に吸い込まれた。移籍8年目の1トップが、最大規模の責務を果たしてモスクワの悪夢を一蹴し、チェルシーの初優勝が決まった。