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プレミアリーグから美学が失われ、
ゲルマン魂も消えた、CL決勝の真実。  

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木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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photograph byBongarts/Getty Images

posted2012/05/22 10:32

プレミアリーグから美学が失われ、ゲルマン魂も消えた、CL決勝の真実。 <Number Web> photograph by Bongarts/Getty Images

勝負が決したピッチに座り込むバイエルンの選手達。ユップ・ハインケス監督は「チェルシーを祝福することしかできない」とコメント。

 今回のCL決勝戦では、ある2つの“兆候”が明らかになった。

 1つ目は、チェルシーが属するプレミアリーグについて。

 チェルシーの決勝における戦いぶりを見る限り、こう考えざるをえない。もはやプレミアリーグは世界3大リーグに見合うだけの美学を失いつつあり、いずれ他のリーグに並ばれる可能性が高い……と。

 バイエルンがPK戦の末に敗れた夜、ドイツサッカー協会のテクニカル・ディレクターを務めるマティアス・ザマーは、チェルシーのスタイルをこう断罪した。

「チェルシーにはおめでとうと言いたい。しかし、この日チェルシーが見せたものがサッカーの未来だというのなら、それはカタストロフィー(終焉)だ。すでにバルセロナとの準決勝が、カタストロフィーだった。どうプレーするかという流儀や美学の問題。魂が泣いている」

 チェルシー側からしたらただの負け惜しみにすぎないが、ザマーの主張にも一理あるだろう。確かに決勝戦におけるチェルシーは、“アンチフットボールの悪魔”に魂を売っていた。

1000億円規模の資金を投じた最高の傭兵軍団が……。

 ひたすら自陣のペナルティエリア付近に張り付き、相手のミスを狙ってカウンターを仕掛ける。ヨーロッパの辺境から勝ち上がって来たチームが、こういう戦い方をするならまだ納得できる。だが、チェルシーはロシアの石油王が1000億円規模の資金を投じた、最高のクオリティーを持つはずの傭兵軍団なのだ。シーズン途中に監督が交替したことを差し引いても、あまりにも臆病な戦い方だった。

 今季のCLにおけるプレミアリーグ勢を見ると、マンチェスター・ユナイテッドとマンチェスター・シティがグループリーグで敗退し、決勝トーナメント1回戦でアーセナルが姿を消した。チェルシーの“アンチフットボール”を貫く弱気な姿勢は偶然ではなく、ブランド力の低下が始まっているがゆえの兆候なのではないだろうか。

 もちろん今回のCL優勝によって、アブラモビッチが“結果”のさらに上にあるものを目指し始めたら話は別だが――。

【次ページ】 あまりにも素直過ぎた……バイエルンの攻撃。

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