ブンデスリーガ蹴球白書BACK NUMBER
香川離脱に見るドルトムントの深謀。
代表招集を巡る日独の温度差とは?
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byItaru Chiba
posted2012/02/22 10:31
後半戦に入り、公式戦5試合で4ゴールと絶好調だった香川。1日も早い復帰はファンもクラブも望むところだ
五輪予選への参加を却下されたボルシアMGの大津祐樹。
例えば、2月22日に行なわれるロンドンオリンピック最終予選のマレーシア戦への参加を、ボルシアMGの判断によって認められなかった大津祐樹。帯同を許されなかったのは、ボルシアMGで右MFのレギュラーを務めるヘアマンが右肩の鎖骨を骨折したために、大津がその代わりを務められる能力を持った選手の一人だと判断したからだった。
大津がヒーローとなった昨年11月の予選2試合の際にも、予選直前の試合で中盤から前の選手に怪我人が出ない場合に限り大津の派遣を認めると、ボルシアMGが条件を提示。実際に、怪我人が出なかったために、11月の派遣が認められた経緯があった。
ただ、2月5日のシリア戦のときは少し様相が異なっていた。招集を許可するかどうかを決める前日の1月29日に行なわれたシュツットガルト戦、シリア戦が行なわれた1日前のヴォルフスブルク戦のリーグ2試合に加え、シリア戦の直後の2月8日のドイツカップ準々決勝のヘルタ・ベルリン戦でも、大津は試合出場はおろか、ベンチ入りメンバーからも外れていた。大きな怪我や深刻な体調不良に陥っていたわけでもない。結果論ではあっても、大津の招集を認めても良かったのではないかと思えてくる。
印象的だったのは、招集の判断を下す前日、シュツットガルト戦終了直後のことだ。エーバーSDに日本人記者が、「大津のシリア戦の出場は認めるのか?」とたずねると、「明日決めるんだ、今はわからん!」とぶぜんとした表情で答えて、タバコをふかした。
しかも、このときはアジアの極東にある日本ではなく、ヨーロッパにほど近いアジアの西端に位置するヨルダンでの試合だった。それなのに、スタジアムや練習場で目が合えば、笑顔で「ハロー」とほほ笑むエーバーSDが、ナーバスになっていた。彼らは、ヨーロッパの外へ所属選手を送りだすことにナーバスになっているのだ。
クラブ側の懸念と裏腹にザックは香川の帰国を願う。
話を戻すと、今回のドルトムントのケースは、香川がドイツ中を震撼させるほどの活躍を見せているからのものであり、彼に非はない。むしろ、これほどまでの香川の活躍は、本人の成長のためにも、優勝を争うドルトムントのためにも、そして、日本代表の未来のためにも、プラスになる。それは間違いない。
優勝争いが本格化する3月と4月の試合をにらんで、チームの絶対的な中心選手である香川に良いコンディションを保って欲しいとドルトムント側が願うのもうなずける。
一方で、日本代表が香川の帰国を切に願っているのも、また一理ある。日本代表のザッケローニ監督は最近、日本サッカー協会を通じて発表した手記の中でこんな風に綴っている。
「代表チームに時間を無駄にできる試合などありません。1試合1試合がチームとしての力を高めていくために用意されているのです」