Jリーグ観察記BACK NUMBER
Jリーグが進歩するために学ぶべき、
世界最高のコンディショニング理論。
~【第3回】 PTPのメニューと実践~
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byJ-Dream
posted2012/01/03 08:00
ヒディンクの右腕として、2002年韓国代表の肉体改造に取り組んだレイモンド・フェルハイエン。今回、サッカーを通じたオランダと日本の国際交流に努める『J-Dream』主催で行なわれたセミナーの講師として来日。来年も今回同様のイントロダクションセミナーと、今回の参加者を対象としたアドバンスセミナーを開催予定だという
体力の限界を超えてから始まるトレーニングとは?
ただし、いくら回復力があっても何度もそのサイクルを繰り返しているうちに、だんだん速さは落ちていってしまう。「アクションの頻度の持続」(4)、つまり、回復力を90分間持続させるには、異なるトレーニングが必要だ。
レイモンドの場合、11対11(もしくは8対8)のゲームで監督がコーチングすることによって、「体はきついが、指示で動かなきゃいけない」という状況を作り、アクションの頻度をオーバーロードさせる練習を行なっている。
たとえば1セット10分間の11対11のミニゲームを、2分間の休憩をはさみながらやったとしよう。もし4セット目の6分の時点で、選手の息が切れていたり、攻守の切り替えができないといった状況になったら、それが回復力の持続の限界のポイントだ。
そのときにあえて「今、プレスをかけろ!」といったコーチングをすれば、選手は体力の限界を超えて動かざるをえない。韓国の選手たちは、2002年W杯前にこの発想のトレーニングに取り組み、試合終盤に失速するという課題を克服することができた。
また、ヒディンクが2009年にチェルシーの監督に就任したとき、選手たちは守備的なサッカーを続けてきた弊害で、90分間プレスをかけるだけの体力がなかった。そこでヒディンクはプレスをかける位置をセンターライン付近に設定するという“妥協案”を採用し、その間にレイモンドに肉体改造をさせて、最終的には前線からプレスをかけられるチームに変貌した。そのとき活躍したのが、このコーチングによって負荷をかける11対11のミニゲームだ。
「日本は60分以降に必ず失速する」と見抜いたヒディンク監督。
2006年W杯前、オーストラリア代表を率いていたヒディンク監督は、ドイツ対日本の親善試合を観て、「日本は60分以降に必ず失速する」と確信し、実際にその弱点を突いて日本に逆転勝利した。もし日本もレイモンド理論に基づくコンディショニングのトレーニングをしていれば、あれほど劇的に終盤に崩れることはなかったかもしれない。
ちなみにレイモンドは、従来のフィジカルトレーニングを完全に否定しているわけではない。選手の能力に応じて、例外的にジムでマシーンを使ったメニューや体幹トレーニングを課すこともある。
「一番やってはいけないのは、指導者が理論にこだわりすぎて、理論を実行することが目的になってしまうこと。選手の能力とコンディションをきちんと把握して、それぞれに合ったやり方をしなければいけない」