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【準決勝2試合プレビュー】
リアリズムかロマンか?
“覚悟”が問われる2ndレグ。 

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田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

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photograph byToru Morimoto

posted2009/05/05 10:00

【準決勝2試合プレビュー】 リアリズムかロマンか? “覚悟”が問われる2ndレグ。<Number Web> photograph by Toru Morimoto

 カンプノウで行われた第1戦は0-0の引き分け。アウェーゴールが決まったわけでもないので、基本的にバルセロナとチェルシーは互角の立場で2戦目を迎える。

 だがバルセロナのダメージは大きい。今シーズン、カンプノウで0封されたことは一度もなかったし、またしても「アンチ・フットボール」の前に臍を噛む格好になってしまった。

 それにしても驚くのはヒディンクの勝負師ぶりだ。守備を固めてカウンター狙いという作戦は予想通りだったが、あそこまで徹底するとは思わなかった。プレビュー原稿ではバラック、エシアン、ミケルの名前を併記したが、ヒディンクは実際に3人を併用。フィジカルの強さを活かし、徹底的にパスサッカーをつぶす手段に出た。予想外だったのは、徹底した「水際作戦」でゴールの周りも固めたことだ。こうしておけば、バイタルエリアにボールを持ち込まれても、最後のところで失点を防ぐことができる。ヒディンクは完全にゲームプラン通りの戦い方をした。しかも我々が想像した以上に、リアリズムに徹したのである。

ヒディンクはキープコンセプトでなんら問題がない

 スタンフォード・ブリッジの第2戦、基本的にヒディンクは第1戦と同じ戦い方をすればいい。フィジカルなプレーで相手の攻撃を潰し、ゴール前では水際の守備を徹底する。そしてロングボールやインターセプトからカウンターを狙う。しかもマルケスとプジョルの欠場により、得点できるチャンスは第1戦より増えるはずだ。

 だがそこは冷徹なヒディンク。アウェーゴールを喫する危険性が高くなるのであれば、無理に攻勢に出るような真似はしないかもしれない。0-0で延長からPK戦というオプションも、当然のように視野に入れているはずだ。

 得点を奪えば勝利を手繰り寄せられるが、不用意に前掛りになれば失点のリスクが高くなる。かといって勝負をPK戦に委ねることにも、相応のリスクはつきまとう。二つのリスクのうち、どちらを極小化しようとするのか。ヒディンク流のリアリズムについてさらに深く知るという意味でも、究極の選択の行方は興味深い。

 他方、グアルディオラはいかに戦うべきか。たしかに美意識を貫いて勝てればそれが一番いい。今度こそ華麗なパスサッカーで「アンチ・フットボール」の牙城を崩すことができれば――しかも相手のホームで目にものいわせることができれば――これ以上の快感はないし、やはり「正義は最後に勝つ」ということになるのかもしれない。

ペップは信条を曲げてでも勝ちにこだわれるか?

 しかし第1戦と同じ方法で向かっていけば、少なくとも攻撃に関しては同じ結果に終わる可能性が高いように思われる。ましてや今回は、守備陣が1戦目よりも脆いというハンディもある。

 窮地を脱する一つ目の方法は、ショートパスをつなぐ手法にある程度見切りをつけることだ。いかに丁寧に攻撃を組み立てても、途中で相手に潰されてしまうのではしょうがないし、時間をかけた結果、ゴール前に壁を築かれてしまうのでは意味がない。

 ならばショートパスにこだわるのではなく、ミドルレンジのパスやロングボールを積極的に使い、チェルシーの壁を崩していくことを考えた方がいい。たとえば第1戦では、ジェラール・ピケが一気に後方からロングフィードするシーンがあった。前方で味方の選手同士が交錯したため、この攻撃は実を結ばなかったが、少なくとも膠着状態を打破する糸口になりそうな気配は感じさせた。

 二番目の方法はカウンターを意識することだ。第1戦では、エトーやメッシ、アンリなどが、中盤までボールを拾いにこなければならない場面が度々あった。こういう場面は2戦目でも必ず出てくるだろう。彼らにしてみれば本意ではないかもしれないが、物は考え様。中盤からパスは出てこないわけだし、アタッキングサードのところでボールを受けることができても、前方にスペースがない(チェルシーのDFが密集している)のであれば、むしろ攻撃の最終ラインを中盤まで下げ、そこからFWやMFが一体となってカウンターを展開した方が効果的なのではないか。アンリやエトーにはスピードがあるし、今回のバルサには、プジョルとマルケスが抜けた穴を埋めるため、もともとのラインを下げ気味にしなければならないという事情もある。

 三番目はフィジカルなプレーへの対応だろう。バルサの選手にファウルや汚いプレーを勧めるつもりは毛頭ないが、ある程度は割り切って対応していくことが求められている。その意味でもトゥーレなどが果たすべき役割は大きい。

 もちろんこれらの策は、美しいサッカーで勝つという信条に反するかもしれない。大仰な言い方をすれば、バルサのアイデンティティにもかかわる問題だろう。しかし「勧善懲悪」を演じるためには、あえて「善(いいサッカー)」の部分を切って捨てることが、グアルディオラには求められている。

マンチェスターUは見事な選手起用法で勝利をものに

 マンチェスターUがアーセナルを1-0で下した、もう一つのCL準決勝ファーストレグ。

 特に感心したのはファーガソンの選手起用法だ。マンUには攻勢を強めれば強めるほどカウンターに対して脆くなるという欠陥があることは既に述べたとおりだ。この問題は守備的MFの人選(マンUの場合は2枚とも攻撃的選手を起用することが多い)と深く関係しているが、今回ファーガソンは攻撃力と守備力をバランスさせるために、キャリックとアンデルソンという攻撃志向の強いMFと、献身的な守備でチームに貢献するフレッチャーを同時に使って、この問題を解決してみせたからである。

 フレッチャー同様に効いていたのは、世界有数の「ディフェンシブ・フォワード」テベスの起用だった。この結果、マンUは開始直後から猛烈な勢いで前線からプレスを掛け、そのままの勢いでチャンスを作ってゴールに迫るというリズムに乗ることができた。システムや人選は若干の変更があるかもしれないが、マンUは第2戦にも基本的に同じスタンスで臨めばいいように思う。

 対するアーセナルは、戦い方を大幅に見直す必要があるのではないだろうか。4-2-3-1の「3」の中央、あるいは4-4-「1」-1の「1」のようなポジションでセスクを起用するというのは最近ベンゲルがよく使う手だし、CLではアウェーゴールがものをいう以上、セスクを前目で起用した気持ちもわからないではない。

 しかし4-2-3-1の場合、2には守備が強い選手を、3の両脇にはウィングのようにスピードがあり、シュートの能力も高い選手を配置するのが鉄則なはずである。それが2にナスリ、3の左にディアビを使ったのでは、なんのための4-2-3-1かわからなくなってしまう。

疑問が残った守備陣の闘志のなさ。アーセナルは変われるか?

 ベンゲルは試合の途中ではウォルコットに代えてベントナーを入れたり、あるいはダシルバを投入したりしたが、そもそも有効なチャンスを作れないのでは、いかにFWの駒を増やしたり入れ替えたりしても基本的な状況は変わらない。今回アーセナルの選手たちは、中盤でさかんにパスを回したが、決定的なチャンスを作ることができた回数は、五指にも満たなかったような気がする。

 攻撃以上に疑問が残ったのは守備だ。アーセナルの選手たちは守備におけるアグレッシブさが明らかに欠けていたし、必死さも伝わってこなかった。これは強者の立場にあるはずのマンUの選手が、がむしゃらになってプレスをかけ、そこから攻撃のリズムを作っていったのとは正反対である。アーセナルは完全に受けに回っていたし、どこかよそいきのプレーをしていた。

 マンUはホームで1点しか挙げられなかった。これはたしかにアーセナルにとっては好材料だ。だが翻って今度はアーセナルが、最低でもマンUと同じ以上の結果を出さなければならないことになる。

 はたして自分たちは、マンUの守備陣を崩せるほど華麗なパス回しができているのか。テベスやフレッチャーが見せたような、猛烈なマークをかわし切れるほどテクニックのある選手はいるのか。そして第1戦目以上に貪欲に攻めてくるであろうマンUの攻撃陣を、今のような守備で抑え切ることができるのか。

 サッカーでは運も大きくものを言う。とくに最少失点差ともなればなおさらだが、運をつかむためにも、ベンゲルとアーセナルの選手がやらなければならないことは多いように思う。

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