プレミアリーグの時間BACK NUMBER
F・トーレス移籍の裏側に隠された、
チェルシーとリバプールの思惑。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2011/02/18 10:30
チェルシー移籍後最初の試合である古巣リバプール戦に臨むF・トーレス(左から2番目)。自身のキャリアは出身クラブのアトレティコ・マドリーで終えたいと考えているという
1月31日に実現したフェルナンド・トーレスの電撃移籍。リバプールの“アイドル”のチェルシー入りは、英国史上最高の5000万ポンド(約67億円)という移籍金も相俟って、今冬の移籍市場で最大の衝撃をもたらした。
誰もが「あり得ない」と思っていた商談が成立した裏には、2つの大きな理由があると考えられる。
ひとつは、チェルシーに“焦り”があったということだ。
そもそも、このスペイン代表FWの名は、以前から絶対的な権限を持つオーナーのロマン・アブラモビッチの“購入希望リスト”に挙がっていたと言われる。実際、チェルシーがトーレス獲得に動いたのは今回が初めてではない。トーレスの代理人によれば、チェルシーによる最初の接触は昨年7月。だが、そのときはリバプールの門前払いに遭い、クラブ間の交渉には発展しなかった。
今回も、移籍金3500万ポンド(約47億円)での第1弾オファーは即座に拒絶されている。
しかし、チェルシーは諦めなかった。国内で二冠王となった直後の前回とは事情が違うからだ。
今季のチェルシーは、昨秋からの不振の影響でプレミアリーグ連覇はおろか、4位以内の確保も危うい。翌シーズンのCL出場が怪しいままの後半戦は、2003年からのアブラモビッチ体制下では初めてのことだ。欧州制覇を目論むオーナーにとっては、あってはならない非常事態なのである。
リバプールのトーレス売却は事業計画外だったが……。
もう1つの理由は、リバプール新オーナーの存在だ。
昨年10月に去った前オーナーは、短期的なクラブ売却益を求めていた。昨夏の移籍話に耳を傾けなかったのも、戦力ダウン以上に、看板のトーレス放出によるクラブの評価額ダウンを嫌ってのことだったと見られている。その点、後任のFSG社(買収当時の名称はNESV社)は、長期展望を掲げてビジネス拡大を狙っている。
もちろん、トーレス売却は“事業計画外”だったと思われるが、新オーナーは限られた時間内で賢明に動いたと言える。